自らを信じて
動く気配の無い中柄を、引きずるように動かして、俺が座るソファーの横にもたれかけるように座らせた。
やはり目を見開いたまま、ソレは動かない。
それを確認しながら、ソファーへと座り直した。
「バッテリー切れ?」
手で中柄の目を閉じさせながら、視線を小柄な方へと戻す。
「そう」
表情も変えず、口だけを動かして言った。
その動きだけを見ていると、本当に機械なんだと思う。
可愛い顔をしているが、感情が乏しいからか、まさに人形のようだ。
「自己回復機能が付いていても、短時間では効果は薄い」
『でんげん』
中柄が最後に言おうとした言葉。
「電源、か」
小柄が頷くように瞬きをした。
「そう。それも、一般家庭には無いような規格外の物が必要」
そして、と言葉を続けた。
「ここにそれがある」
ギシリと首を傾げるように動かした。
まるで、「そのとおりでしょう?」と答え合わせを待つ子供のように。
「それは、まぁ……」
思わず口に手を当て、唸る。
あることには、ある。
小さなビルぐらいの電気をまかなえる程度のものは。
だが───。
「なぜ、それを知っている?」
不信感を隠すこともせず、視線と言葉を小柄にぶつける。
「分からない。いつの間にか、知っていた。ここに来れば、良いってことを」
「知っていた?」
その言葉の真意が掴めず、首を傾げる。
「逃げる途中で急に開かれた、私の記憶領域に書き込まれたデータ」
「データ?」
「貴方───結園朔也の名前と住所」
不意に名前を呼ばれ、思わず背筋に冷たいものが走る。
「……何かと繋がっているって訳か?」
俺の訝しげな言葉に、小柄は首を小さく振る。
「私は……私達は望まない限りスタンドアローンを保っている。だから、外部からというのは不可解」
「望まない限り、だろう? 非常回線とかが繋がっていたりは……」
「ない」
ピシャリと、断言した。
「私以外はともかく、私は情報戦に秀でた個体。外部からアクセスされるなど設計上考えられない」
「だが、緊急事態───」
「緊急事態は私の情報が漏れること。私がスリープの時に強制アクセスされ、情報を開示された瞬間に、私は自己破壊するようになっている」
あり得ないことを言うように、口早に俺の言葉を遮られる。
「そう思っているだけで───」
「ない」
また、ピシャリと言い切られる。
「そう……か」
反論しても無駄だと諦めた。
「なので、考えられるとしたら、事前に書き込まれていて、緊急事態になったら展開されるようにプログラムされていたということ」
「なるほど、ね。仮にあるとして、それは信じられる情報なのか?」
小柄は頷く。
「データの正否を確かめる為に逃げる最中に調べた。数年前の電気使用量が、一般家庭とは思えないほど桁違いにあった。電力会社との契約を見てみると、小さな工場ぐらいの契約をしており、それが変更された形跡がないため、今も変わらずという結論に達した」
「よく、調べられたな」
小柄の言葉に、素直に驚く。
「これでも情報戦用の個体として造られている。これぐらいできて当たり前」
表情は変わらず体も動いていないが、フフンッと胸を張っているように見えてしまう。
「そんなことして大丈夫なのか? 追われているんだろう?」
「こんなことで探知されるなんて情報戦用として出来損ない以下」
小柄の言葉に、思わず笑みが浮かぶ。
「たいした自信だ」
俺の皮肉にも似た言葉にも、小柄は動じることはない。
「それで、電源は貸してくれるの?」
なにが「それで」なのかと、交渉にもなっていない言葉に苦笑いを浮かべながら首をすくめた。
「電源はある。まぁ、貸してやってもいい。ただ明確にして欲しいことがある」
「……なに?」
不機嫌を隠すことなく、鋭い視線を俺に向けた。
「俺に危害を加えないことだな。もしかしたら、回復したお前らが、俺に危害を加えるかも知れないだろう? 口封じのためにね」
俺の言葉に、小柄の眉間に皴が寄ったように見えた。
「私達が攻撃するとでも?」
「現にしただろう? 俺としては担保が欲しい所だな」
そう言いつつ、横に座る中柄をポンッと叩く。
「……信じて欲しい」
バツが悪そうに、呟くように小柄は言った。
「機械を信じろと?」
鼻で笑う俺に、小柄は不思議そうに俺を見た。
「機械?」
「機械だろう? いくら生体部分があろうが機械に換装されてる部分がほとんどの筈だが?」
「いえ……違います」
俺の言葉を否定する声。
それは、小柄の横に座る大柄から聞こえてきた。
「私達は……機械でもなければ、アンドロイドでもありません」
大柄がギシギシと音をさせそうなほどゆっくりと動く。
切れ長の鋭い目が、俺を見る。
「私達はちゃんとした、人間です」
その迷いのない瞳が、表情が、いやに眩しく見え、思わず目を細めた。




