冷たい人形たち
中柄は、まだなんとか背負って運ぶことができた。
だが、大柄は重すぎて背負えず、脇の下から腕を通して、足を引きずりながら運んだ。
百七十センチメートルはあるであろう、俺より一回りほど小さいソレは、俺より遥かに重かった。
とりあえず、リビングのソファーに三体とも座らせる。
床に転がすこともできたが、それはなぜか憚られた。
「はぁ、やれやれ。疲れた……」
テーブルを挟んで対面するように置かれた、一人掛けのソファーにどっかりと座る。
弾んだ息を整えながら、重労働のせいで細かく痙攣する両腕をマッサージしていく。
腕をさすりながら、対面に座らせた三体を眺める。
セミロングの髪をアシンメトリーにしている大柄。
短くした髪を立たせ、襟足を伸ばしてウルフカットにしている中柄。
腰まである長い髪を、同じ長さに切り揃えている小柄。
三人とも同じ白いワイシャツと黒いズボン。
荷物などは持っておらず、着の身着のままという状態だ。
それぞれの顔は似てないが、他の人が見れば、三姉妹が仲良く眠っているように見えるだろう。
だが。
「人間じゃ、ない」
確認するように小さく呟く。
これは、人形だ。
機械仕掛けの、精巧に作られた人間だ。
なにより、息もしていない。
反射もなければ、人間としての柔らかさや柔軟さもない。
ただ、死体ではない。
内部で何かしら駆動をしているように感じる。
息を整えながら、ソファーの背もたれに体を預け、座らせた三体をぼぅっと見る。
『科学の進歩はすさまじいよ』
そいつらを見ていて、不意に思い出す言葉。
『キミの知らない所で、どんどん進んでいる。もしかしたら昨日会った人間は、機械仕掛けかもしれない』
痩せた頬に無精髭を生やした、メガネの男が頭に浮かぶ。
病的な風貌に似つかわしくない、爛々と輝く瞳。
夢を追いかけ続けた少年のような目をしていた。
『笑うなよ。それほど、すさまじいのさ』
そいつは、俺と共に夢を追いかけた男の一人。
『僕はいつか、キミと一緒に……』
ガクリ、とバランスを崩して体が揺れる。
どうやら、意識が飛んでいたようだ。
仕事をした後に、休憩もせずこんな重労働をしたのだ。
無理もない。
眠気を振り払うように、頭を振った。
「疲れが溜まってるのかね……」
そう呟きながら、対面に座らせていた三体を見る。
「二体?」
大柄なのと小柄なのしかいない。
『中柄なのはどこに行った?』
ハッとして、立ち上がろうとする。
「動くな」
ヒヤリと冷たい手が、俺の首に当てられた。
頚動脈の辺り。
鋭い刃物を当てられたような感覚。
「私の質問に答えろ。おかしな動きをしたら、分かるな?」
静かな、冷たい声。
俺の頭の上から降ってくる。
「……あぁ」
生唾を飲み込みながら、答えた。
「ここはどこで、なんでこういう状況になった?」
俺の首に手を当てたまま質問する。
「俺の家だ。お前らが玄関に座り込んでいて……」
顎で、大柄なモノをしゃくる。
「アイツが、助けてくれって言ったんだ。だから、とりあえずは家に入れた訳だ」
そう答えながらも、かすかな疑問が俺の脳裏に浮かぶ。
なぜ、俺は何も疑問を持たずに家へ入れようと思ったんだろうか。
こんなことになるのなら、もう少し考えてから行動をしても良かったのでは。
自らの行動を悔いても、もう遅い。
だが、その疑問は頭の中を駆け巡る。
「そうか……。それについては礼を言おう」
中柄のその言葉に俺の考えは中断させられた。
なぜか、その疑問は、最初から無かったみたいに頭の奥へ沈んでいった。
俺の首に当てられた手が、揺れる。
ついたり、離れたり。
ギシリッと俺が座るソファーがきしんだ。
まるで、なにかが寄りかかったように。
気配が、だいぶ近くなった。
密着するほどすぐ後ろに、いるのだろう。
『もしかして……』
さっきの大柄のヤツのことを思い出す。
電池が切れたように動かなくなったことを。
『じゃあ、コイツも燃料が無いってことか』
ついたり、離れたりを繰り返す手。
「もう一つ、聞き……たい」
言葉さえも、うまく話せなくなっている。
「ここに、でんげん……は……あ……る……」
不意に、言葉が切れた。
次いでガクリと、俺に負ぶさるように崩れた。
「おい……!」
体勢を入れ替え、ソファー越しに上半身を抱きかかえる。
「どうしたんだ?」
覗き込むように、中柄を見る。
目を開いたまま、何も反応を示さなかった。
「無駄」
後ろから聞こえてきた、幼い声。
ギクリとして、振り返る。
「もう、バッテリー切れ」
幼さが残る顔立ちをした小柄が、気だるげな細い目だけを動かして俺を見ていた。




