70.アメリカ人の意地
昭和17年(1942年)4月 東京砲兵工廠
俺たちはハワイ北方での大海戦について、話を聞いていた。
「そうか、誘導爆弾はやっぱり効いたんだな」
「魚雷の方も、対策を施しておいてよかった」
「そうだな。だがめでたしめでたしでは、終わらないんだ」
「そんなに犠牲が出たの?」
「攻撃隊については、それほどでもない。問題は艦隊の方だ」
「一体、何が起きたんだよ?」
川島の表情から、どうにも良くないことが起きたと知れる。
彼は一拍おくと、淡々と説明しはじめた。
まず日本側が敵艦隊を発見した後、敵からも偵察機の接触があった。
どうやらアメリカも開発に力を入れたようで、それはレーダーを搭載していた。
ただちに迎撃したのだが、敵偵察機は臆することなく艦隊に接近し、最後まで情報を発信していたという。
当然、我が艦隊は攻撃隊を発進させてから、直掩機を上げて、敵を待ち受けていた。
やがて敵戦闘機と、直掩の烈風が激突する。
こちらは200機以上の烈風を繰り出したが、敵も負けてはいない。
ほぼ同数のF6Fと殴り合いになった。
烈風は終始、優勢に戦ったものの、どうしても攻撃機への対処が手薄になってしまう。
そこへ米軍の攻撃機隊が、パラパラと来襲した。
このパラパラというのが曲者で、せっかくのレーダー管制も効率的に機能しない。
しかも艦爆はドーントレスからヘルダイヴァーへ、艦攻はデヴァステイターからアヴェンジャーへと、新型に代替わりしていた。
必ずしも新型が優れるとは言い切れないが、少なくとも速度が数十kmは速くなっている。
そんな攻撃機がわらわらと押し寄せるのだ。
到底、直掩機だけではさばききれない。
それを機動艦隊の対空兵装が、大回転で迎え撃った。
先のマリアナ沖海戦でも、艦艇の対空兵装が大活躍したのだ。
さらにその戦訓を取り入れ、対空兵装を進化させていた。
日本側兵士に、若干の油断があったとしても仕方ないだろう。
そして米攻撃隊の、猛攻撃が始まった。
従来であれば、敵は被弾すれば適当に爆弾などを落とし、帰還していただろう。
彼らは自由の国の兵士であり、生き残る事も重要だと教育されているからだ。
しかし今回の敵機の様子は、全く異なった。
被弾を全く意に介さないかのように、執拗に接近して命中弾を狙ってきたのだ。
それどころか、致命的な損傷を受けたと知ると、機体ごと突っ込んでくる機体が続出した。
それはまるで、史実日本の特攻隊のようだったという。
「アメリカ人が特攻を?! そんな馬鹿な」
「信じられないかもしれないが、事実なんだ。アメリカ人が意地を示した、と言ったところか。おかげで我が艦隊は、甚大な被害を被った」
「甚大って、どれぐらい?」
「……軽空母の全てと、巡洋艦と駆逐艦が2隻ずつ沈められた。他の艦も生き残ってはいるが、それなりに被害を受けてる」
「ええっ、軽空母が全てやられちゃったの?!」
わりと脆弱な祥鳳型軽空母が全て、敵の攻撃で沈没したという。
さらに巡洋艦と駆逐艦も2隻ずつ沈められ、他の艦も中破以上が多い。
おかげで空母の収容能力が低下し、かなりの数の艦載機を廃棄せざるを得なかったという。
もちろん、搭乗員の救出は最優先で行ったので、人的被害はさほどでもないそうだが。
「それにしても、アメリカ軍が特攻をするだなんて、想像もできなかったな」
「いや、それだけアメリカも、追い詰められてたって事なんだろう。これは想定しておくべきだった」
「そんなこと言ったって、どうすればよかったんだよ!」
後島の叫びに対し、川島が慰めを口にする。
「幸いにも、四郎の開発した30mm機関砲が、活躍したらしいぞ。あれがなかったら、もっと被害は拡大してただろう」
「ああ、あれな。ちょっとやり過ぎかと思てたけど、役立ったんか」
「ああ、破壊力はそれほどでもないが、遠距離から当てられるのが有効だったそうだ。一部では、”艦上の守り神”とまで呼ばれてるらしいぞ」
「ほ~、それはずいぶんと、惚れられたもんや。それにしても、米軍機の多くが特攻したんか。たぶん覚醒剤とか、つこうとるやろな」
そんな佐島の指摘に、中島が驚愕の表情を浮かべる。
「えっ、覚醒剤って、犯罪じゃないの?」
「そんな事あらへん。第2次大戦では欧米も、アンフェタミン系の覚醒剤を、普通に使っとったんや。今回も出撃前に、しこたま服用させたんやろう。ほいでアメリカには後がないとでも言うて、追い込んだんちゃうか?」
「そんな……ひどいよ」
「それが戦争っちゅうもんや」
そんな中島の気持ちも分からないではないが、今はそれどころじゃない。
「まあ、それはともかく、結局、海戦には勝ったんだろ?」
「ああ、死傷者は想定より多いが、勝ったのは間違いない。敵はまた、ほぼ全滅に近いからな」
「そうか。それじゃあ、いよいよ終戦へ向けて動くんだな?」
「そうだ。謀略課が総力を挙げて、終戦工作を実施する。じきに朗報が聞けるだろうよ」
「本当にそうなるといいな」
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その後、日本艦隊の損害が確定した。
沈没:祥鳳、瑞鳳、龍鳳、千歳、軽巡洋艦2隻、駆逐艦2隻
大破:飛龍、軽巡洋艦1隻、駆逐艦3隻
中破:蒼龍、翔鶴、瑞鶴
小破:その他空母6隻、戦艦5隻、重巡洋艦3隻
死傷者数:約1万5千人(内死者1万人)
艦載機被害:被撃墜147機、帰投後廃棄288機 計435機(損耗率46%)
という深刻なものだった。
対する米艦隊の被害推定は
沈没:大型艦の8割
大破・中破:残り艦艇の9割
死傷者数:約7万人
捕虜:約1万人
艦載機被害:被撃墜8割(特攻含む)、帰投後廃棄2割弱
それはほぼ全滅に近く、やはり残存艦艇は降伏している。
人的被害も甚大であり、アメリカ海軍はほぼ戦力を喪失した、と言っていいだろう。
その一方でまた、日本海軍はダメ押しの一手も推進していた。




