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未来から吹いた風 ~5人でひっくりかえす太平洋戦争~【改訂版】  作者: 青雲あゆむ
第4章 太平洋戦争編

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65.燃える西海岸

昭和16年(1941年)5月 東京砲兵工廠


 ハワイをボコボコに破壊して以来、日本は西海岸やハワイの通商破壊に勤しんでいた。

 おかげでハワイの軍事施設の復旧は進まず、西海岸にもパニックが起こっている。


 にもかかわらず、アメリカ政府は意気軒昂だった。

 政府を批判する世論も、思ったほど高まりを見せていない。

 やむなく我が軍は、新たな作戦を発動することになった。


「とうとう始まったのか」

「ああ、通商破壊だけじゃあ、埒が明かないからな」

「でも恨みを買うんじゃない?」

「そんなのはお互い様さ。しかも都市部への攻撃は避けてるんだから、十分に人道的だ」


 米西海岸への攻撃。

 これは零式飛行爆弾”桜花”により、西海岸を爆撃する作戦だ。

 桜花は現代の巡航ミサイルに近い兵器で、伊400型潜水艦から撃ち出される。


 この兵器の開発には、俺もそれなりに貢献していた。

 音響魚雷ほど高度な制御は必要ないものの、信頼性の高いジェットエンジンに仕上げるには、俺と後藤が汗をかいたものだ。


 そんな”桜花”は射出したら狙いも何もなく、ただ突っ走るだけの爆弾である。

 しかし800kgもの弾頭が、時速650kmで飛来するのだ。

 この時代の技術では、とても防げるものではなく、西海岸に大きな被害をもたらした。


 もっとも、”桜花”の落下地点のほとんどは、無人の山林や農地である。

 さすがに最初から都市部を狙っては、海外世論を敵に回しかねないという配慮からだ。

 そのため弾頭も焼夷剤に入れ替え、人気のない所へ向けている。


 それでもどこに落ちるかという恐怖感はあるし、山火事も引き起こす厄介な存在なのは間違いない。

 まれに住宅地の近くにも落下するので、その威嚇効果は実態をはるかに上回っていた。


 ちなみに伊400型潜への桜花搭載数は3発なのだが、それだけ撃ってミッドウェーに戻るのは効率が悪い。

 そこで敵の哨戒範囲を避けて母艦を派遣し、洋上で補給していた。

 太平洋の制海権を、ほぼ完全に握ったがゆえの荒業だ。



 またこれらの攻撃と並行して、アメリカ本土で諜報戦も展開していた。

 特に目立ったのは、ロサンゼルスやサンフランシスコなどで、多数のビラをばら撒くことだ。

 そのビラには、英語で次のようなことが書かれていた。


 ”旅順港で攻撃を受けたとする主張は、アメリカ政府の謀略である。

 極東同盟は攻撃を仕掛けていないにもかかわらず、こちらのせいにされた。

 我が国はこのような暴挙に対し、断固抗議するものである。

 その一環として、日本海軍はアメリカ太平洋艦隊を打ち破っただけでなく、ハワイの軍事施設を灰燼に帰した。

 しかしアメリカ政府はなお、停戦の呼びかけに応えようとしない。

 このままでは我が軍は、無辜の市民にまで攻撃を加えねばならないだろう。

 良識あるアメリカ市民よ、政府が停戦に応じるよう、声を上げてほしい”


 これは人通りの多い繁華街の高所からばらまかれたため、米政府も隠しようがなかった。

 そしてその衝撃は、ほぼ期待どおりのものになる。


 ただでさえ、西海岸の主要港には機雷が撒かれ、潜水艦が輸送船を攻撃しているのだ。

 陸上への攻撃がないなどとは、決して言えない。

 そう考えた市民たちにより、たちまちのうちにデモが続発した。

 怒りをぶちまける者、市民の保護を願う者、そして大統領の弾劾を叫ぶ者などが、各地の庁舎を取り巻いて声を上げる。


 これに対し、州や市レベルでは困惑し、まともなアクションが取れなかった。

 そこで政府はまず警察を動員して、デモを解散させようと図った。

 しかしそれに反発したデモ参加者との間に衝突が発生し、とうとう暴動に発展してしまう。


 事ここに至って、アメリカ政府は緊急事態を宣言した。

 軍を出して暴動を鎮圧したのだが、市民の不満は爆発寸前にまで高まっているそうだ。


「ビラの効果は、思った以上に大きかったみたいだな」

「ああ、苦労してやった甲斐があるってもんだ」


 満足そうに言う川島に、後島が聞く。


「今後の作戦は、どうなるんだ?」

「それはアメリカの出方しだいだ。しかしあいつら、頑固なんだよなぁ」

「最強国家のアメリカが、東洋のサルどもに膝を屈するわけにはいかないってか」

「マジでそんな認識なんだろうよ」

「やっかいだな……」


 これだけの騒動が起きていても、アメリカが交渉に応じる気配はないらしい。

 負けっぱなしでいい所がないせいで、意固地になっているのだろう。


「そうなると、本格的に都市部を爆撃するか、パナマ運河を攻撃するかになるのか?」

「ああ。だけど都市部の爆撃はまずないだろう。後々に遺恨が残りすぎるし、陛下や元老たちも渋っているから」

「そりゃそうだろう。そうすると、パナマ運河一択か?」

「たぶんな。だけどあっちも、ずいぶんと守りを固めているらしいんだ」


 パナマ運河。

 それは中米にある、大西洋と太平洋をつなぐ大運河である。

 1914年に開通したそれは、年2千万トン以上の貨物が行き交う大動脈だ。


 さらにアメリカ東海岸には主要な造船所が集中しているため、運河が使えなくなれば太平洋への戦力移送が滞る。

 日本にとって重要な攻撃目標だが、それだけに敵の守りも固く、危険度は高い。

 特にハワイ基地が壊滅してからは、狂ったように航空戦力を集めているという話だった。


「伊500型潜水艦なら、航空攻撃は不可能じゃない。しかしそれが通用するのも、1回きりだろうな」

「仮に成功したとして、どれぐらい運河輸送を止められるの?」

「破壊状況によるが、半年から1年ぐらいかな」

「半年で復旧できるのか? でたらめな工業力だな」

「そういう国なんだよ。しかしやる価値は高いと思ってる」

「ああ、そうだな」


 戦況はこちらが圧倒的に有利だが、その先は見えない。

 アメリカには底知れぬ潜在力が眠っているのだから。

 しかし俺たちも、30年以上掛けて育ててきた力と戦略で、立ち向かうのだ。

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