幕間:ドーリットル空襲
【ハズバンド・キンメル】
日本との戦争が始まり、驚いたことに太平洋艦隊が大打撃を被った。
その責任でリチャードソンが司令官を解任されたと思ったら、なんと私にその椅子が回ってきた。
これで私も大将か。
「それで、我が艦隊が大敗した原因は掴めたのかね?」
「はい、司令官。確証には乏しいのですが、情報をかき集めていくつかの事実が見えてきました」
「ふむ、それはどんなものだね?」
「はい、まずは日本海軍が、大規模な空母機動艦隊を繰り出してきた事です」
「大規模な空母機動艦隊か。たしか我が軍も、4隻の空母を出していたが、それ以上かね?」
「はい、明らかに我が軍を優越していた模様です」
「ふむ……しかしそれだけで、こうも圧倒的な敗北になるだろうか?」
そう問うと、彼も不本意な顔で答える。
「たしかに通常では考えられません。ここで第2の要素が絡んできます。敵の航空魚雷が、異常な命中率を実現したらしいのです」
「異常な命中率? それはどれぐらいのものだね?」
「後方で傍受した通信から推測するに、7、8割はあったのではないかと」
「馬鹿な! 何をどうやったら、そんな事ができるのだね?」
すると彼の後ろで控えていた士官が、恐る恐る言いだした。
「はあ……状況から推測するに、魚雷が艦艇を追跡したと思われます」
「艦艇を、追跡? 君はそんな技術を、日本が実現していると言うのかね?」
「我が軍でも研究は進められていますから、全くの夢物語ではありません」
そんな馬鹿な。
東洋の黄色いサルが、誘導魚雷を実現しているだと?
いや、しかしそれが事実だとすれば、今回の大敗にも説明がつくのか。
「にわかには信じがたいが、先の敗北の説明にはなるな。どういう原理なのかね?」
「複数の聴音装置で目的の方位を割り出し、追跡します。基本的には敵のスクリュー音を追う形になるでしょう」
「それはまた、大層な兵器だな。本当にジャップが実現していると思うのかね?」
「情報が少なすぎて断言はできませんが、その可能性はあります」
「ふむ……」
少し迷ったが、放置はできないと判断した。
「よし、この件についてチームを組み、対策を考えるように。必要なら外部の研究者も入れるんだ」
「は、承知いたしました」
「うむ、頼んだぞ」
やれやれ、これはとんでもない貧乏くじを引かされたのかもしれんな。
しかし厄介事は、それだけに収まらなかった。
「に、日本本土を爆撃ですか?」
「ああ、そうだ。頼むよ、ハビー。何か方法を考えて、成果を挙げてくれないか。マリアナ沖で戦った兵士の家族が、うるさくて仕方ないんだ」
「は、はあ……」
クソ、そんな政治事情を、戦争に持ちこむなよ。
ただでさえ艦艇が足りないのに、俺にどうしろってんだ?
そんな俺の内心を読んだのか、大統領がプランを提示した。
「君の前任者に相談した時、空母に陸軍の爆撃機を載せれば、いけるかもしれないと言っていた。ぜひ、検討してみてくれ」
「……は、了解しました」
やむを得ず提案を持ち帰り、検討してみた。
するとたしかに空母から陸軍機を発進させれば、日本本土も爆撃可能と出た。
空母はエセックスを使い、爆撃機は運用が始まったばかりのB25が適任となる。
貴重な空母を危険にさらしたくないが、やらざるを得ないだろう。
気が進まないが、そう報告するか。
その後、大統領に報告すると、大喜びで採用された。
陸軍も全面協力で、準備はどんどん進む。
願わくば、空母には無事で帰ってきて欲しいものだが。
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【ジェイムズ・ハロルド・ドーリットル】
エアレースで鳴らしていた俺が、決死の爆撃行を任されるとは、思いもよらなかったな。
それも日本にやられっぱなしじゃ格好が悪いってんで、大統領に強要されるような形でだ。
まあ、同胞を何万人も殺した日本が相手なんだ。
私情は抜きにして、仕事はきっちりやるさ。
「今から俺たちがやるのは、非常に危険な作戦だ。しかし敵は、我らがステイツに楯突くイエローモンキーだ。奴らに鉄槌を下すため、全力を尽くせ!」
「「「おうっ!」」」
チームに檄を飛ばすと、ただちにB25へ乗りこみ、空母エセックスを飛び立った。
目標は日本の首都 東京と、他の主要都市だ。
そのために準備したのは16機のB25と、各自4発の焼夷弾や500ポンド爆弾だ。
これで日本の都市を、焼き払ってやる。
しかしそうそう思うようには、いかないようだ。
「洋上に日本籍らしき舟艇を発見。通報されたかもしれません」
「やむを得んな。このまま続行する」
「は!」
やはり敵も無警戒というわけにはいかないか。
しかしこの広大な太平洋で、的確に補足し続けるのも困難だろう。
適当に欺瞞行動を混ぜて、撹乱してやる。
そう思っていたんだが、日本軍はそれほど甘くなかった。
「前方上空に、敵編隊! 戦闘機と思われます」
「なんだと! ただちに迎撃態勢を取れ!」
「はっ」
報告のとおりに、敵編隊が見えてきた。
遠くてよく分からんが、速そうな機体だ。
可能なら密集隊形で迎撃したいところだが、あいにくと無線機類は降ろしている。
無線封止が前提で、機体を軽くするためだ。
くそっ、こんな事態に陥るとはな。
やがて敵部隊の攻撃が始まる。
俺たちは必死に抵抗したものの、1機また1機と脱落していく。
それでも敵の追撃は振り切ったと思ったのだが……
「北方より別の編隊! かなりの数がいます」
くそっ、これ以上の攻撃には耐えられんぞ。
かと言って爆弾を捨てても、逃げ切れるとは思えん。
これは進退きわまったか。




