幕間:アメリカにもあったんやな
【佐島四郎】
いよいよアメリカの艦隊が動きそうな状況や。
そこであれこれ話をしている中で、ふと気になったことを訊いてみた。
「なあ、慎二や祐一は、常々アメリカの兵器は凄いゆうて、褒めとるやろ?」
「ああ、実際に凄いのが多いからな」
「せやけど、アメさんにも失敗談とかあるはずや。なんかおもろい話があれば、聞かしてくれんか?」
すると慎二が、ここぞとばかりに身を乗り出した。
「おっ、そうか、聞きたいか! 実は太平洋戦争ではな、とびきりのネタがあるんだ!」
「ほ~、どないな話や?」
「その名も、不具合てんこ盛り魚雷事件~! ドンドンドン、パフパフパフー」
なんか慎二が、妙にノリノリや。
せっかくなんで、話を合わせたる。
「お、おう。それはどんなもんや?」
「うん、まず真珠湾攻撃を受けて、アメリカ海軍はただちに無制限攻撃命令を出したんだ。これで動きだしたのが、フィリピンを拠点にする米海軍アジア艦隊だな。30隻ぐらいの潜水艦が、攻撃を試みたんだって」
「ほ~、ほんで?」
「だけど潜水艦で採用されてたMk.14魚雷がひどいポンコツでさ、当たっても爆発しなかったんだよ。おかげで日本艦艇は、撃たれた事すら気づかない場合もあったんだって」
「それはまた、間抜けな話やな。もちろんすぐに対策したんやろ?」
すると慎二が首を横に振る。
「それが不思議なことに、まともに改良されるまで、2年近くも掛かったんだ」
「なんでや?」
「当時の潜水隊司令のロバート・イングリッシュっておっさんが、”それは魚雷の使い方が悪いんだろう”って言って、まともに取り合わなかったらしい。さらに魚雷の設計元である兵器局も不具合を認めず、現場の報告を無視してたんだって」
「それはまた、なんちゅうか……」
「笑える話だろう? アハハハハハ」
敵の失敗が嬉しくて仕方ないのか、慎二が大笑いしとる。
しかしそれで終わる話でもなさそうや。
「ほいでも、2年後には改善されたんやろ?」
「ああ、実は司令官のイングリッシュが、飛行機事故で死んじゃうんだ。その後任になったのがチャールズ・ロックウッドって言って、まともな人だったらしい。現場の意見を聞き入れて、独自に魚雷の調査を進めたんだ。すると魚雷が想定よりも、3メートルほど深く走ってる事が分かった。もちろんすぐに抗議したさ」
「へ~、それで解決かいな」
「いやいや、Mk.14魚雷を舐めちゃいけない。この魚雷の磁気信管がまたポンコツでな、早期爆発や不発を繰り返したんだって」
「ブハッ、とんでもない兵器やなぁ」
あんまりな話に、思わず吹き出してもうたわ。
そうかぁ、アメリカにもそんな話、あったんやな。
ん、慎二がまだ何か言いたそうや。
「なんや、まだ先があるんか?」
「これで解決したと思うだろ? だけどまだ続きがあるんだ。さっきの磁気信管については、改良の見込みが立たなくて、使用禁止命令が出たんだよ。それで従来の接触信管を使ったんだけど……」
「使ったんやけど?」
「ティラノサっていう潜水艦が、第3図南丸っていうタンカーを雷撃したんだよ。そしたら命中13発のうち、2発しか爆発しなかったんだ。おかげで図南丸は生還して、半年ほど長生きできた。結局、沈められちゃったけどな」
「ほ~。それにしても、不良率85%なんて、潜水艦の乗員も驚いたやろな」
「そりゃそうさ。ティラノサはなんとかハワイに帰り着いて、この不具合を報告したんだって。それで改めて調査した結果、接触信管が爆発前に壊れてた事が判明した」
「なんでや?」
「Mk.14が旧型より高速になってたせいで、命中時の衝撃が大きかったらしい。それで衝撃に耐えきれず、信管が壊れたってわけ」
「なるほどな。そこにたどり着くまでに、2年近くか?」
「そう。正確には21ヶ月も掛かった。アメリカにしては間抜けな話だよな」
「ハハハ、ほんまや。たしかに悪い気分はせんな」
「そうだろ? ま、改良後はそれ以前と比較にならないぐらい、日本側の被害が膨れ上がったんだけどな」
「油断してた分、だまし討ち食らったようなもんか」
「まさにその通り」
慎二はそう認めながら、肩をすくめる。
すると黙って聞いていた祐一が、口を開いた。
「ま、アメリカ人も完璧には程遠いってことだな。というよりも、アメリカはけっこう、兵器開発には失敗してるけどな」
「へ~、例えばどんな?」
今度は正三が興味を示し、祐一がそれに答える。
「有名なのが、ベトナム戦争時のセンチュリーシリーズだな」
「え、何それ?」
「1950年代にアメリカ空軍が開発した戦闘機たちさ。百番台のFナンバー機体だから、センチュリーシリーズって呼ばれてる。日本でも採用されたF104スターファイターが、わりと有名かな」
「ああ、あの鉛筆みたいな戦闘機な」
「そうそう」
さすがに慎二はそういうの、よう知っとる。
言われてみれば、そんな戦闘機があったかもしれんな。
「そのセンチュリーシリーズが、どう失敗だったの?」
「この頃のアメリカ空軍はよく考えずに開発してたようでな、6機種もあったのに、ベトナム戦争では使い物にならなかったんだ。ソ連のMig17や21に、歯が立たなかった。F105だけは、辛うじて使えたらしいけど」
「えっ、それじゃ大変じゃん」
「大変だったんだよ。これに慌てた空軍は、海軍のF4ファントム2を採用して、なんとか乗り切った。関係者は屈辱だったろうな」
「へ~、そんな事があったんだ。たしかに空軍が海軍機を使わざるを得なかったなんて、恥ずかしそうだよね」
「どこも軍同士は仲が悪いからな」
「日本ほどじゃないでしょ」
「違いない」
苦笑する祐一の後を受けて、慎二も別の話を持ち出す。
「アメリカの失敗っていうと、海軍のズムウォルト級駆逐艦とか、沿海域戦闘艦もあるよな」
「ああ、インディペンデンス級とフリーダム級な」
「ズムウォルト級なんて、30隻以上つくる予定が、たった3隻になっちゃったからな。フリーダムやインディペンデンスだって、だいぶ減らされた上に、数年で退役してる艦もある。明らかな失敗作だな」
「だよな。ズムウォルト級なんて、すげえステルス仕様で未来的なのに」
「あれこれ詰め込もうとしすぎて、コストに見合わなくなったんだろ」
「らしいな。それに情勢の変化もあるだろう。兵器開発に時間を掛けてるうちに、戦争の形態が変わってたんだ」
「なるほどな。まあ、アメリカに限らず、兵器開発には当たりハズレがあるって事だ」
「そういう事。俺たちも気をつけようぜ」
なるほどなぁ。
使ってみないと分からんちゅうことは、けっこうあるからな。
その点、未来を知っとる俺らがいる分、日本は有利やろうな。




