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未来から吹いた風 ~5人でひっくりかえす太平洋戦争~【改訂版】  作者: 青雲あゆむ
第4章 太平洋戦争編

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59.総力戦体制を整えよう

昭和15年(1940年)9月初旬 東京砲兵工廠


「ソ連が攻めてきたんやって?」

「ああ、宣戦布告もせずに、押し寄せてきやがった。まあ、どうせソ連は正統ロシアを国家承認してないから、当然だがな」

「さよか~。ほいでも日本は、ソ連に宣戦布告したんやろ?」

「ああ、防衛協定に従って、ただちに宣戦布告した。もっとも、じきに冬だから、大きな動きはないだろうが」


 とうとうソ連が極東の地に攻め寄せてきた。

 数十万を擁するであろうソ連軍が、イルクーツクから押し出してきて、ウラン・ウデが制圧されている。

 対する正統ロシア軍は、事前の作戦に従って後退し、チタの守りを固めようとしていた。


 さらに共産モンゴル軍も清の北部に押し寄せ、国境付近で戦闘が始まっていた。

 ただしこちらはそれほど数が多くなく、なんとか押しとどめているらしい。

 そして日本、清国、正統ロシア、韓国は”極東同盟”として防衛協定を結んでおり、その義務に従って各国が参戦した。


 こうして始まった対ソ戦だが、シベリアは冬が近いので大規模な作戦は難しく、当面は守りを固めることになるだろう。

 おかげで兵士を動員する時間は稼げるが、その分、来春の激突は激しくなりそうだった。


「それにしても、米ソと極東同盟の戦争か。まさかこんな事になるとはね」

「ああ、頭数はこっちが多くても、2大国がそろって敵になるんだからな」

「ぶっちゃけ、人口もGDPもこっちの倍くらいあるんだよね~」


 現時点での両陣営の人口と実質GDPは、以下のようになる。


アメリカ:1億3264万人、1兆5千億ドル

ソ連  :1億5400万人、6131億ドル

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

合計  :2億8664万人、2兆1131億ドル



日本   :7600万人、4600億ドル

清国   :4000万人、1450億ドル

大韓帝国 :2300万人、 800億ドル

正統ロシア:1600万人、 600億ドル

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

合計   :1億5500万人、7450億ドル


 こうして見ると、いかにアメリカが強大な国であるかが分かる。

 その人口規模もさることながら、経済力がずば抜けていた。

 さらにソ連も加えれば、人口・経済ともに2倍近い。


 しかしその戦力が全て、極東に向けられるわけでもない。

 欧州ではドイツとイタリアが暴れまわっているからだ。

 ちなみに他の主要国の国力はこうだ。


ドイツ :6984万人、5284億ドル

イギリス:4823万人、4468億ドル

イタリア:4434万人、1388億ドル

フランス:4100万人、2100億ドル


 まだイギリスは参戦していないが、いずれは独伊と仏英の戦いになる可能性が高い。

 そしてイギリスが日本に敵対する可能性もないではないが、それはまず無いと見ていた。


「イギリスには敵対しないよう、働きかけてるんだろ?」

「もちろんだ。それだけでなく、ちゃんと脅しも掛けてある」

「うわ~、さすがスパイオタク」

「オタク言うな」


 後島と川島がじゃれているが、その内情についても聞いている。

 日本の諜報員がインドに潜り込み、いざという時に反乱を扇動する手はずになっているんだとか。

 もちろんイギリスには脅しだけでなく、日本と組む場合のメリットについても知らせている。


 その辺は今は亡きスパイマスター 明石大将の指導の賜物だ。

 もちろんソ連の内部にも、諜報網を張り巡らせてある。

 だてに35年も、活動してきたわけではないのだ


「そうすると、次はアメリカとの艦隊決戦か」

「ああ、まずは敵さんの太平洋艦隊に、犠牲になってもらおうか」

「せやせや。アメリカ人にも、自身が犠牲になる恐怖を味わってもらおやないか。フハハッ」

「そのうえでルーズベルトの悪行をばらして、休戦に持ちこむんだよね。だけどそう、上手くいくかなぁ」

「まあ、長期戦は覚悟のうえで、いろいろ準備してある。なんとかするさ」


 まだ先行きは見えないが、俺たちに悲壮感はなかった。

 油断は禁物だが、相応の準備はしてきたのだ。

 焦らず急がず、やるべき事をやればいい。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 一方、軍人でない俺たちも、決して暇なわけではない。

 むしろ戦前よりも、忙しく立ち働いていた。

 その主な役目は、官民の間を取り持って、日本の生産体制を維持することだ。


 史実日本は1938年に国家総動員法を公布し、戦争のための人や物資を政府が統制した。

 しかしその実態たるやひどいもので、ムリ・ムダ・ムラのオンパレードだ。

 なにしろ軍部や政府が国民を信用していないから、全てを国主導で動かそうとした。

 そんなもの、どんなにがんばっても、まともに機能するはずがない。


 しかしこの世界の日本は、経済力も工業力も格段に高まっている。

 それらを有効に利用できるなら、ある程度は民間で自由にやらせるという理解が共有されつつあった。

 とはいえ、全てを仕切りたがるのは、役人の習性だ。


 そこで俺と後島、中島、佐島はそれぞれの得意分野で、民間の活力を殺さないよう、役人との間を取り持った。

 それは国家の求める物資を、いかに円滑に提供させるかの交渉とか、より生産性を上げるため、企業間の協力を促すよう提案するなどだ。

 ともすれば頭ごなしに命令しがちな官僚をなだめ、逆に民間からの提案は積極的に取り入れる。


 例えば”この条件を緩めてくれれば、生産性が上がる”とか、”この作り方を認めてくれれば、安くできる”なんて提案だ。

 なにしろ平時では考えられないような受注があると同時に、その原資は税金だ。

 ただ言われたままに納品していては、お国の運命に関わる。

 どうせやらねばならぬなら、より良い成果を引き出してやろうと、発奮する企業が続出した。

 これによって日本の巨大な工業力が、凄まじい勢いで、回転しはじめる。


 その一方で成人男性の多くには動員が掛かり、職場から引き抜かれる事態も避けられなかった。

 もちろん、重要な職にある者や、特殊な技能を持つ者などは免除されている。

 特に優秀な科学者は事前にリストアップされており、数千人もの人材が専門分野で活用される予定だ。

 史実では無秩序に徴兵した挙句、多くの有用な人材を使い潰したのとは大違いだ。


 それでも数十万人もの男性が戦場に駆り出され、高齢者と女性がその後を埋める事になる。

 しかし高齢者はともかく、女性を駆り出すのも簡単ではない。

 女性は我が家で家庭を守るもの、という観念が社会に染み付いているからだ。

 史実よりも工業化が進み、多少は女性の進出が進んでいても、やはり障害は多かった。


 しかしそれも当然のことで、敵側のアメリカですらそれは避けられなかったのだ。

 そこで彼の国は、以下のような施策でそれを乗り切ったという。


1.職人芸を必要とする工程を見直し、非熟練者でも働けるようにする

2.パンツスタイルを許容する方向へ世論を誘導する

3.冷蔵庫の普及や託児所の設置などで、家事負担の軽減を図る

4.安全かつ24時間運行の公共交通機関を整備する


 職人芸を不要にするのは当然として、働きやすいパンツスタイルを定着させるため、メディアを使ってイメージの転換を図るまでやった。

 さらに買い物の負担を減らすために冷蔵庫を普及させたり、通勤を容易にするため、安全な公共交通機関まで整備したという。

 さすが、国民が権利を主張できる民主国家といったところか。


 はなから国民に命令することしか考えない日本とは、大違いである。

 ちなみに日本でも戦争中、”モンペ”の着用が奨励されたのだが、上からの押しつけだったせいで不評だった。

 そこでこの世界では、カラフルでデザインにも凝ったモンペを、流行らせてみた。

 おかげで都会の人々にもそれは受け入れられ、女性の工場進出を後押ししつつある。


 それに加え、より作りやすい製品の設計を進めたり、冷蔵庫や電気炊飯器を安く売るなどしている。

 さらに公共交通機関も整備し、治安の向上にも努めている状況だ。

 おかげで動員にともなう労働力不足も、解消する目処が見えてきた。


 しかし西太平洋では、いよいよ大海戦の機運が高まっていた。

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