53.艦載機を作ろう
昭和12年(1937年)4月 海軍追浜飛行場
「お~、零戦だ」
「ああ、零戦だな」
「うん、零戦だ」
「この世界では、3年も早く生まれたっちゅうわけやな」
「そうさ。しかもより高性能にな」
今日は海軍の追浜飛行場に来ていた。
それも続々と制式化された艦上航空機を、みんなで見るためにだ。
まず目の前で華麗に空を舞っているのが、97式艦上戦闘機だ。
【97式 艦上戦闘機】※カッコ内は零戦21型の数値
長さ・幅 :9.1×11m
出力 :1130馬力(940馬力)
最大速度 :毎時565km(533km)
航続距離 :2000km(2222km)
武装 :12.7mm機銃×4
乗員 :1名
その外観は、史実の零戦によく似ている。
ただし航続距離は21型よりちょっと劣るし、格闘戦能力もそこそこでしかない。
その分、速度や急降下性能に優れ、生産性が格段に高い。
エンジンは中島の栄でなく、三菱の金星を採用しているため、今後の性能向上にも余裕があった。
一般に零戦は世界に誇れる名機だと言われるが、実際にはそれほどでもない。
たしかにあの時代に日本が作った機体としては、立派なものだ。
しかし低速での格闘戦能力を重視するあまり、それ以外がおろそかになっていた。
そのためデビュー当初は旧世代機を相手に無双できたが、新型の高速機に押されるようになる。
もっとも、烈風や紫電改という次世代機が、スムーズに開発できていれば問題は少なかっただろう。
それが海軍航空本部の不手際で遅れ、終戦まで使われたのがそもそもの間違いなのだ。
そういう意味では、それなりに優秀な佳作機だったと言えるのかもしれない。
そんな話を仲間うちでしていると、三菱の堀越技師が近寄ってきた。
「どうも、大島さん。おかげで97艦戦が無事に制式化できました」
「おめでとうございます、堀越さん。なかなかいい機体に仕上がったみたいですね」
「ええ、海軍さんからもご好評をいただいてます。だけど大島さんの助言がなかったら、ここまでの機体にはならなかったですよ。金星へのお口添えも、とても助かりました」
「ハハハ、お役に立ったのなら幸いです」
実は97艦戦の開発過程で、中島のエンジンを載せろという指示が、海軍から出そうになった。
三菱のエンジン部門は海軍に嫌われていたせいか、史実でも零戦や烈風の開発で、同様の事態が起きている。
まず零戦は三菱の瑞星から、試作途中で栄への変更を強いられた。
どちらも排気量は28リッター程度だが、栄の方が軽量で出力も高かったからだ。
しかしこれは最初から栄が高性能を狙っていたからであり、その後の性能向上は芳しくなかった。
三菱のエンジンは性能向上代が大きい傾向にあるので、瑞星のままの方が良かった可能性はある。
さらに烈風の場合は誉の搭載を強いられたものの、エンジンの出力不足で完成しなかった。
そこで三菱で開発中のエンジン(誉を後追いしたモノ)を海軍に打診したが、なかなか受け入れられない。
ようやく試作を認められ、良好な成績を示した時には、終戦間際だったという逸話がある。
そしてこの世界でも、三菱のエンジン部門が嫌われたのか、それとも中島さんの売り込みが上手かったのか、97艦戦への栄エンジン搭載案が浮上していたのだ。
別にこの時代、他社のエンジンを載せるのも珍しくないが、同じ会社内に良いエンジンがあるのに、外部から買う必要もない。
そこで俺は、信頼性の高さと三菱内の連携効果を訴え、金星エンジンを推してやった。
すでにエンジンの大家として知られる俺の言は、さほど抵抗もなく受け入れられた。
おかげで深尾さんたちからは、ずいぶんと感謝されたものだ。
そんな感じで、高性能な97艦戦の完成にも貢献できたらしい。
やがて艦戦の模擬飛行が終わり、攻撃機と爆撃機のお披露目が始まった。
「こっちは97艦攻と、99艦爆だね」
「だな。だけどやっぱり性能は上がってるんだろ?」
「当然さ」
97式艦上攻撃機と爆撃機は、それぞれ史実の97艦攻と99艦爆に似ている。
ただしその性能は、史実より数年は先行していた。
【97式 艦上攻撃機】※カッコ内は史実97艦攻の数値
長さ・幅 :10.3×15.3m
出力 :1150馬力(970馬力)
最大速度 :毎時390km(378km)
航続距離 :2000km
武装 :7.7mm旋回機銃
800kg魚雷もしくは800kg爆弾
乗員 :3名
【97式 艦上爆撃機】※カッコ内は99艦爆の数値
長さ・幅 :10.2×14.4m
出力 :1130馬力(1070馬力)
最大速度 :毎時390km(382km)
航続距離 :1500km
武装 :7.7mm機銃×2、7.7mm旋回機銃
250kg爆弾もしくは60kg×2
乗員 :2名
艦攻は中島飛行機の設計で栄エンジンを、艦爆は愛知航空機の設計で金星エンジンをそれぞれ載せている。
実は艦攻も金星にしようという話もあったのだが、中島飛行機が”ぜひ栄を使わせてくれ”と言ったので、様子を見た。
ちなみにこの世界の栄エンジンは、俺の助言で金星並みの排気量にアップしている。
多少、大きく重くなったが、出力や信頼性に余裕があり、将来性ありとして採用した。
全て統一した方が、整備や補給の面で有利だろうが、競争も必要かと思い直した。
実際に成果を出してみせたので、今後も競い合って、さらなる高性能化を果たして欲しい。
そう思っていると、例のあの人が現れた。
「やあ、大島さん。見てくださいよ、うちの機体を。これも大島さんたちのおかげです」
「どうも、中島さん。今日も元気そうですね」
「そんなことないよ。最近は体がいうことを聞かなくてね。年は取りたくないよ。ワハハハハッ」
そう言って豪快に笑うのは中島知久平、中島飛行機の社長である。
すると一緒に来ていた男性も、あいさつをしてくる。
「こんにちは、大島さん」
「どうも、小山さん。97艦攻の開発が成功したようで、何よりでした」
「ええ、大島さんや後島さんには、本当にお世話になりました」
彼は小山悌といって、中島飛行機で技師長を務めている。
中島飛行機にはエンジン設計を統括できる人材がいなかったので、彼と相談して設計方針を決めた。
おかげでエンジン設計に統一性が生まれ、信頼性もだいぶ高まっている。
本来なら、そこまで世話を焼く筋合いはないのだが、強引な中島さんに頼まれ、面倒を見るはめになった。
おかげであの会社に行くと、”先生、先生!”といって追い回される始末だ。
俺は中島の社員じゃねえって~の。
日本のためと思えばそれほど腹も立たないが、程々にしてくれと言いたい。
それはさておき、これで空母機動部隊を構成する機体は出揃った。
当面の備えはこれでいいだろうが、まだまだ気は抜けないかな。




