52.大和を造ろう
昭和11年(1936年)4月 海軍艦政本部
1934年末の軍縮条約破棄によって、アメリカは海軍の増強に動き出した。
それは軍縮条約で溜まっていたうっぷんを晴らすような、強烈なものだった。
具体的には戦艦4隻、空母2隻、巡洋艦5隻、駆逐艦14隻、潜水艦5隻という、壮大な建造プランである。
法案が成立するや否や、ルーズベルトは大々的に公表し、景気の浮揚効果を狙った。
それは期待ほど効果を挙げていないニューディール政策の、代替政策という一面もある。
対する日英仏も、それを座視するわけにはいかない。
第2次ロンドン軍縮条約を踏まえつつも、それぞれの建艦計画をぶち上げる。
日本もまだ検討中としながら、過激な計画を示唆してやった。
それは4万5千トン級の戦艦4隻を中心とする、一大建艦計画だ。
詳細は未定としながらも、”18インチ(45.7センチ)砲の採用もあり得る”、という情報を意図的にリークした。
そしたら米国から、大きな反応が返ってきた。
「フハハッ、アメリカも18インチ艦を造るそうだぞ」
「ええ、まさに狙いどおりですね」
そう言って笑うのは、平賀譲大将と、藤本喜久雄少将である。
(※兵制改革で、技術士官も大将昇進が可能になった)
史実では予備役入りした平賀さんと、早逝した藤本さんだが、どちらもいまだ現役だ。
これは俺たちの介入で、海軍の風通しが良くなった事が大きいだろう。
おかげで平賀さんは新規技術の採用にも前向きだし、藤本さんは用兵側に引っ張られて無理をすることもない。
どちらも溶接工法に積極的で、普及が加速しているのも嬉しい点だ。
そのためこの世界では、友鶴事件や第4艦隊事件などの不祥事は起きていない。
細かなトラブルは無いでもないが、海軍を震撼させるような事態には至らなかった。
造船技術者の2大巨頭が協力し、そこに俺たちが入れ知恵してるんだから、それも当然だろう。
「この調子で、ジャンジャン戦艦を造ってくれるといいですね」
「うむ、その間に我らは、空母と潜水艦を増強するわけじゃ」
「金剛と長門も、ようやく改装できますしね」
「いや~、楽しみですな」
俺の言葉に、平賀さん、後島、藤本さんが楽しそうに応じる。
なにしろアメリカの軍縮条約離脱によって、時代はすでに事実上の無条約状態へ向かっている。
そんな中、日本は空母を追加すると同時に、既存の戦艦も改装し、艦隊護衛の基幹とする計画を建てていた。
まず空母だが、日本はすでにエセックス級に相当する艦を、3年前に就役させていた。
それが正規空母の”翔鶴”になる。
【翔鶴】
全長・全幅:265.2×28.4m
基準排水量:2.7万トン
出力 :15万馬力
最大速力 :33ノット
搭載機数 :95機
主要兵装 :38口径5インチ(12.7センチ)連装高角砲×4基
38口径5インチ高角砲×8基
30mm連装機関砲×30基
鳳翔と蒼龍の建造・運用で得たノウハウをつぎ込んだ、最新型の空母だ。
生産性を確保しつ、格納庫は開放式にして、生存性にも多大な配慮をはらっている。
特に危険なガソリンタンクは、船首側、船尾側の中央部に1ヶ所ずつ配置した。
これを4重の隔壁と海水で囲い、戦闘時には二酸化炭素を充填するという念の入れようだ。
さらに減ったガソリンは海水に置き換え、気化ガソリンが極力発生しないよう配慮もしている。
これはアメリカ空母を参考にした手法で、鳳翔や蒼龍で試行錯誤した結果、やはりこれが最も実用的だと認められた形だ。
航空機は露天繋止で95機を搭載し、舷側エレベーターも採用している。
対空戦闘能力も、5インチ高角砲と各種機銃で強化した。
特に史実で主力だった25mm機銃は威力不足なので、30mm機関砲を新開発した。
これは佐島が主導したもので、時代を先取りしつつも、完全に不可能でもない性能に仕上げている。
さらにレーダーに連動した射撃装置と、近接信管も開発中だった。
レーダーについてはイギリスに共同研究を申し込み、八木・宇田アンテナとマグネトロンを用いたシステムを開発中だ。
さすが、イギリスの技術力はなかなかのもので、史実よりも開発が早まっている。
ちなみにこの辺の技術がアメリカに渡らないよう、釘を差してあるのは言うまでもない。
そして空母機動部隊の守護神として、既存戦艦の改装にも取り掛かった。
金剛型と長門型戦艦をドックに放りこんで、順次強化を始めている。
改装後の諸元は、こんな感じになる予定だ。
【金剛 改装後】
全長・全幅:219.4×31m
基準排水量:31700トン
出力 :14万馬力
最大速力 :30ノット
主要兵装 :50口径14インチ(35.6センチ)連装砲×4基
38口径5インチ連装高角砲×8基
30mm連装機関砲×20基
【長門 改装後】
全長・全幅:224.9×34.6m
基準排水量:39000トン
出力 :16万馬力
最大速力 :30ノット
主要兵装 :50口径16インチ(40.6センチ)3連装砲×3基
38口径5インチ連装高角砲×10基
30mm連装機関砲×20基
それぞれバルジを設けて排水量が増えたが、機関も増強して30ノットを可能とした。
機関の民生化も進めており、川崎と三菱の製品を採用する。
兵装は対空能力を強化しつつ、長門型はとうとう16インチ砲に換装する。
しかも史実で45口径だったのを、50口径に長砲身化していた。
金剛も同様に長砲身化しており、それぞれ射程が伸びている。
まだレーダー関係は間に合ってないが、それが揃えば、まさに世界最強クラスの戦艦になるだろう。
「それに加えて、大和と武蔵か。実に壮観であろうな」
そうつぶやく平賀さんに、藤本さんが懸念を示す。
「しかし本当に18インチ砲にしなくて、いいんでしょうか? アメリカが18インチ艦を作るのは、ほぼ確実なんですよね」
「それはそうですけど、もう戦艦同士で決着をつけるような時代じゃありませんからね。ならば長門と砲弾を共用できる16インチにするべきです」
「う~ん、でも本当に航空攻撃だけで、戦艦が沈められるのかなぁ?」
「もちろんです。航空機の性能はどんどん向上しているし、新兵器も開発してますから」
「なる、ほど……」
以前から何度も話し合ってきた事だが、藤本さんはまだ18インチ砲に未練があるようだ。
しかし航空戦力の優位性が高まるこの時代に、2隻だけ18インチ砲戦艦を造っても、あまり意味がない。
それぐらいなら16インチ砲にして、長門と砲弾を共用するのがベストと判断した。
ちなみに4隻つくると言ってるのはブラフで、代わりに空母を建造する予定である。
そんな大和型戦艦の仕様は、こんな感じだ。
【大和】
全長・全幅:245×34.6m
基準排水量:45000トン
出力 :18万馬力
最大速力 :30ノット
主要兵装 :50口径16インチ3連装砲×3基
38口径5インチ連装高角砲×12基
30mm連装機関砲×40基
そのモデルとしては、やはりアメリカのアイオワ級が最も近い。
あれほど全長は長くないし、速力も30ノットに抑えているが、その戦闘力は決してひけを取らないだろう。
これらの戦艦群に、多数の翔鶴型空母を加えれば、アメリカとも互角以上に渡り合えるはずだ。
もちろん、戦争などしないに越したことはないのだが。




