42.軍人とのつき合い方
昭和6年(1931年)5月 所沢陸軍飛行場
「お~、あれが中島の」
「けっこうカッコええやん」
俺たちはまた所沢飛行場で、陸軍の新型戦闘機を見せてもらっていた。
それは中島飛行機の91式戦闘機である。
【91式戦闘機】※カッコ内は史実の数値
長さ×幅 :7.3×11m
出力 :600馬力(520馬力)
最大速度 :毎時350km(320km)
航続距離 :700km
武装 :7.7ミリ機銃×2
それは日本初の流線型全金属機体で、パラソル翼を採用した単葉機だ。
フランスから招聘した技術者を中心に開発を進め、見事に制式採用を勝ち取った。
ちなみにエンジンはブリストル社のジュピターを参考に、独自設計した寿型である。
(史実ではジュピターのライセンス生産品を使用)
そんな航空機を国内で作れるのだから、日本航空界もずいぶんと成長したものだ。
そんな話をしていると、数人の軍人が近寄ってきた。
「やあ、大島さん、後島さん。元気かい?」
「あ、大西さん、どうも」
「こんちは~っす」
それは海軍の、大西瀧治郎中佐だった。
さらに彼の後ろには、ごっつい軍人が2人ひかえている。
「え~と、そちらは?」
「ああ、角田中佐と、山口中佐だ。2人とも航空機に興味があるという事で、案内をしている」
「あ、はじめまして。大島祐一です」
「後島慎二です」
するとごっつい2人も、あいさつを返してくる。
「角田覚治です」
「山口多聞です。大島さんに後島さんというと、例のエンジン屋さんの?」
「はい。いろいろな所で、技術指導をさせてもらってます」
「やはりそうでしたか。一度、お会いしたいと思っていたんですよ」
「あ、光栄です」
山口さんが手を差し出してきたので、俺と後島も握手に応じる。
すると角田さんまで加わって、握手を交わした。
「あなた方がここにいるということは、あの機体にも関わっているんですね」
「ええ、中島さんとは、以前からお付き合いがありますから」
「なるほど。おかげで中島飛行機も、制式採用を勝ち取れたわけだ。お2人が我が国のエンジン技術を高めているのは、有名な話ですからね」
「いえ、そんなことはありませんよ。中島さんをはじめ、関係者の努力のおかげです」
「フハハ、ご謙遜を。エンジンだけでなく、多方面でご活躍されていると、もっぱらの噂ですよ」
なぜか妙に親しげな山口さんである。
しかしそうなるのもある意味、当然な話であった。
なにしろ俺たちは、すでに25年も軍属の技術者として、国力の増進に励んできた。
その過程でさまざまな成果を出しているのもあって、だいぶ顔が売れてきたのだ。
しかも有望な軍人に陰ながらアドバイスをし、出世を促す事もしている。
彼らとは初対面だが、情報に強い士官なら、気がついていてもおかしくない。
おかげで俺たちはまた昇進し、3年ほど前から中佐待遇である。
軍属でここまで上がる人なんて、そうそう居るもんじゃない。
もっとも、俺たちには強力なバックがあるので、そのおかげと思われているようだが。
すると角田さんも、話に交じってきた。
「なるほど、あなたたちが例の技官さんですか。私も噂は耳にしていますよ」
「それは恐縮です。ところでお2人は航空機に興味をお持ちとのことですが、航空隊に関わるんですか?」
「いや、今はただの興味ですよ。しかし戦術や戦略を語るうえで、航空機は無視できない存在になりつつある。そこで折を見ては、様子を見にくるようにしてるんです」
「それは卓見ですね。実際に航空機は、これからもっともっと発展しますよ」
「ほう、それは例えば、どんなふうにですかな?」
「私にもぜひお聞かせください」
角田さんだけでなく、山口さんも強い興味を示したので、簡単な未来像を語ってみせる。
「そうですね……例えばあの戦闘機ですが、より高速で重武装になっていくでしょうね。今は時速350km程度ですが、いずれはその倍も夢ではないかと」
「なんと、時速700kmとは、想像もつきませんな。しかしそんな簡単に、性能が上がりますか?」
「平時では、そこまで行くのに時間が掛かるでしょう。しかし一旦、戦争にでもなれば?」
「なるほど。性能向上に拍車が掛かりますか。その辺のことも、考慮しておかねばいかんな」
「そうですね。国家の大事に関わるからには、先を見据えないと」
その後もいろいろと聞かれ、しばし話しこんだ。
それにていねいに答えたことで、彼らにはずいぶんと感謝される。
おかげで最後には、数年来の友人のような雰囲気になっていた。
「なかなか紳士的な人たちだったな」
「ああ、軍の雰囲気も、だいぶ変わったんだろうよ」
「フフフ、そういえば、金剛を作る前とか、けっこう衝突してたよね」
「当たりまえだ。あの頃は馬鹿な脳筋が、ゴロゴロしてたからな」
「そうやったな~。そういう意味では、改革に成功したっちゅうことか」
「まだまだ油断はできないけどな」
「せやな。本番はこれからや」
そこで俺は、思いついたことを口にしてみる。
「ああいう人たちが増えてるんなら、今後は軍人との交流も増やしていいんじゃないかな?」
今までは技術開発や国力増進で忙しかったため、ごく一部を除いて、軍人とは親しくしてこなかった。
しかしこうして太平洋戦争の有名人に会うと、もう少し広い交流も必要に思えてくる。
なにしろ前線に立って戦うのは、彼らなのだから。
「う~ん、そうだな。あと数年もすれば、第2次世界大戦が始まるかもしれないし」
「せやな。できる範囲でやればええんとちゃう」
「そだね」
「ああ、賛成だ」
今後は少し積極的に、軍人と関わっていこうかね。




