38.資源を確保しよう
昭和5年(1930年)3月
アメリカで発生した大恐慌の波は、たしかに日本へも押し寄せた。
しかしそれを見越していた諮問委員会と高橋蔵相の働きで、影響はずいぶんと抑えられている。
史実で混乱に拍車を掛けた金解禁も凍結したので、株価や生糸価格、米価の暴落も避けられた。
そんな日本と強い関係を結んでいるのが、新生清国と正統ロシア大公国だ。
どちらも体制が固まって間もなく、しかもアメリカと日本の後見を受けている。
そして清は中華民国、ロシアはソ連という元同胞から圧力を受けているため、国防にも熱心だ。
両国は日本にとり、ソ連への盾にもなるので、積極的に協力している。
近隣にある工業国として、さまざまな物を輸出しているし、国内の開発にも共同で取り組んでいた。
両国から買えるものとしては、やはり地下資源がメインとなる。
正統ロシアには石炭やすず、鉛やタングステンが豊富に眠っているし、満州は石炭と鉄鉱石が有名だ。
さらに満州では、とうとう油田が発見された。
元々、南満州鉄道株式会社を設立する際に、地下資源の開発は共同で進めることになっていた。
しかし中国は情勢が流動的なので、油田は様子見せざるを得なかった。
やがて辛亥革命が起こり、清の満州撤退へとつながる。
そのうえで現地の情勢を見守り、ようやく安定しそうだと判断されたのが1925年だ。
そこからアメリカも巻きこんで、清国に共同で油田探索の申し入れをした。
その結果、満州石油開発という会社が設立され、やがて肇州直隷庁で油田が発見される。
これは現代の大慶油田に相当するもので、史実より30年以上も発見が早かった。
発見後はアメリカ製の機材で採掘が進められ、今や年に50万キロリットルもの原油を産出している。
その多くが日本向けに輸出されており、今後も順調に伸びる予定だ。
この肇州産の石油だが、その比重を示すAPI度は33程度で中質油に相当する。
流動点が高いため、取扱いの難しい部分もあるが、この石油からはガソリンが採れた。
そこで清国内に製油所を作り、各種製品に加工してから、日本へ輸入する流れを作っている。
史実で9割以上をアメリカに頼っていたのが、樺太、蘭印、清国に仕入先を分散できるのは大きい。
アメリカにガソリンを止められ、逆ギレするような未来は無くなったからだ。
ちなみに同じ満州には遼河油田もあるが、こちらは重質油なので手を出していない。
いずれ自然に発見されてから、開発に参加すればいいと考えている。
それから満州では、鉄鉱石の採掘も進んでいる。
有名なのが鞍山鉄山で、鉄鉱石の質は高くないが、埋蔵量は膨大で日本の旺盛な需要を補ってくれる。
そのおかげもあって国内の製鉄量は、年々成長をとげていた
その他にもセレベスのニッケルや、バンカ島のスズ、ビンタン島のボーキサイト、海南島や英領マラヤの鉄鉱石なども検討中だ。
それぞれ宗主国に探鉱を打診し、見込みがあれば採掘の許可を取る方針である。
これらが軌道に乗れば、守りやすい地域で資源を獲得できるため、ぜひ開発を進めていきたい。
そして石油の安定供給に目処がつきつつあるのと並行して、新たな技術も誕生していた。
「ハイオクガソリンの製造に成功したで~」
「お~、おめでとう」
「さっすが佐島せんせい」
「これで飛行機も、ガンガン飛ばせるな」
「俺の貢献も忘れるなよ~」
佐島がとうとう、ハイオクガソリン製造法の開発に成功したのだ。
これは本来、フードリー法と呼ばれる製法で、シリカとアルミナの触媒を利用している。
史実で1936年に実用化されたそれは、ガソリンを効率的に産むだけでなく、オクタン価も高いという特徴があった。
実は日本でもライセンスを得ようとしたのだが、アメリカの経済制裁で頓挫した。
しかしこの世界では、佐島が未来知識を活用し、6年も早く実用化した形だ。
これには高温高圧下で水素を添加できる、特殊鋼の容器を開発した後島の貢献も大きい。
この技術の特許は国内で極秘登録され、一般には非公開となる。
海外でも特許を取れば、高額の使用料を取れるかもしれないが、わざわざ手の内を知らせる必要もない。
代わりに信頼できる国内企業に提供して、国内でハイオクガソリンを量産してやろう。
そうすれば、アメリカの経済制裁だって恐れることはない。
たとえ戦争になったって、日本の航空機は実力を発揮できるだろう。
これでまた一歩、日本の強靭化が進んだ。
もちろん、戦争がないのが一番なんだけどな。




