33.新生日本の大戦略2
昭和2年(1927年)1月 東京砲兵工廠
今後の戦略について話す中、潜水艦による西海岸攻撃の話になる。
すると佐島が茶化すように、後島を煽った。
「ふ~ん、でもそれやと、戦艦大好きな慎二には、物足りないんとちゃうか?」
「いやいや、そんな事ないって。ちゃんと正面装備も揃えないと、舐められるからな。ここはやっぱり、46センチ砲を搭載する大和型を、ドカンとだな」
その的外れな意見に、皆が呆れた目を向ける。
「えっ、何この空気? 大和は必要だよね? 祐一」
「いや~、大和を造るにしても、46センチ砲はないだろう。俺はアイオワみたいな、16インチ(40.6センチ)砲の高速戦艦を押すね」
「いやいやいや。大和は日本海軍の象徴だよ。だったら46センチ砲じゃないと」
すると他の奴らも、呆れた様子で口を開く。
「出たよ、慎二の大艦巨砲ロマン」
「ほんまや。現実と妄想の区別ができとらへん」
「気持ちは分かるけど、胸の中に留めておいたら?」
「ぐはっ、正三にまで裏切られた」
「裏切ったなんて、人聞きの悪い」
話が脱線したので、ここで引き戻す。
「まあまあ、夢の話は後にしようぜ。現実問題として、戦艦や空母も造るべきだ」
「空母は当然として、戦艦も造る必要、あるのか? すでに金剛型や長門型があるだろう」
「いや、海外に誤解させておくためにも、多少は新造する必要があるんだ。なあ、慎二」
川島の問いに応えつつ、後島に振れば、彼が大きくうなずく。
「もちろんさ。日本が航空主兵に舵を切ったと悟られないよう、戦艦の建造は絶対に必要だ」
「ええ~、そんなに重要? どうせ第2次大戦では、空母が主力になるんでしょ」
「もちろんそうなんだけど、最初は戦艦が主役だと考えられてるんだ。空母は制空権を取ったり、潜水艦を警戒するための補助って認識だな」
「そうそう。日本が空母の集中運用で成果を上げてから、アメリカも航空主兵に転換するんだ。だから日本も戦艦主体だと思わせるため、戦艦は造っとく必要がある」
「ふ~ん」
あまり納得がいかない様子の中島に、俺は言葉を続ける。
「それ以上に、国内を納得させる必要もあるしな」
「え、国内って、海軍?」
「おおむねそうだ。戦艦を造らないで、空母や潜水艦だけ増強しようものなら、発狂する奴らがいるからな」
「うへ~、信じられないな」
「まだ戦艦が主役だと信じられてるんだから、仕方ない。そういうわけで、内外を納得させるためにも、戦艦は造る。18インチ砲はいらないけどな」
「そんな~」
「「「アハハ」」」
情けない声を上げる後島に、皆が笑う。
すると川島が懸念の声を上げた。
「でも、そんなに物分かりが悪い奴がいるんじゃ、いざ戦争ってときにヤバくないか?」
「う~ん、その可能性はあるけど、教育が進めば大丈夫だと思う。頭の硬いのは徐々に居なくなってるし、若手も育ちつつあるから」
「そうか。ならいいんだが」
川島が引き下がると、今度は佐島だ。
「戦艦にしろ潜水艦にしろ、今後は電子機器の重要性が高まるやろ? 正三の方は大丈夫なんか?」
「あ~、それね。正直いって、ちょっと自信ないかな」
「おいおい、そんな頼りないこっちゃ、困るで」
「そうは言ってもさ、やる事が多すぎるんだよ。どこまでやれるかなんて、分からないよ」
開き直る中島に、俺は建設的な案を提示する。
「それじゃあ、後で開発のロードマップを作ろうぜ。今後、必要になる技術を洗い出して、優先度と期限を設定するんだ。正三の手が回らなそうなとこは、俺たちが手伝うか、外部の企業や研究室に投げよう」
「あ、それやってくれると、助かるかも。ずいぶんと気が楽になるよ」
「おお、そうだな。これからはそれを基準にして、開発を進めていこうぜ」
「よっしゃ。やったるか」
俺たちが盛り上がっていると、川島が遠慮がちに切り出した。
「あ~、それも大切だと思うが、原爆の開発はどうする?」
「え、開発するの?」
「いざという時のために、やはり作っておくべきだろう」
「「「う~ん」」」
これについてはすでに何回か、話し合ってきた。
そのたびに議論が紛糾し、状況を見て判断しようと言って、先送りしてきたのだ。
「最大の問題は、日本人を信用できるかどうか、だな」
「それやんな~。下手に核を持って、自制できるもんか」
「かと言って、他国に先行されれば、大きく不利になるし……」
「理想はいつでも作れるよう、寸止めしておくことだけど……」
「それができれば、苦労はしないよ。僕たちは専門家じゃないし」
「そうなんだよな~」
もし俺たちが核の専門家なら、開発のコントロールも不可能ではないだろう。
しかし実際にそうではないし、開発は国家規模になる。
そうなれば俺たちの意志が介在する余地など、ほとんどなくなるだろう。
そんな状況に行き詰まっていると、川島が思い切ったように話す。
「みんなの懸念も分かるが、俺はプルトニウム爆弾を開発するべきだと思う。これなら原子炉さえあれば量産できるし、爆縮レンズを俺たちで設計すれば、歯止めにもなるだろう」
「結局そうなるのか…………だけどそろそろ、決断しなきゃいけないんだろうな」
「ああ、そうだ」
その案は以前から、川島が提案していたものだ。
しかし核兵器への忌避感から、どうしても決断できなかった。
皆の顔を見回すと、誰もが暗い顔をしている。
自分たちの手で大量破壊兵器を生み出すと思えば、それも無理はない。
もちろん川島もだが、彼の瞳には強い意志がこめられていた。
それを見て俺も、決断をくだす。
「よし、やろう。どうせ俺たちがやらなくても、人類はそこへ行き着くんだ。ならば日本を守るため、その罪も飲みこもう。毒を喰らわば皿までだ」
「ああ、そのとおりだ」
「せやな。せっかくこの時代に来て、それをやらなんだら手落ちっちゅうもんや」
「う~ん……仕方ないな」
「……」
佐島や後島も賛成したが、中島だけはうなずかない。
そんな彼に、川島が決断を迫る。
「正三、気が進まないのは分かるがな、いつかは決断しなきゃいけないんだ。それにこの開発には、誰よりもお前の力が必要だ。覚悟を決めてくれ」
「…………分かったよ。やるよ。日本を守るために」
「よし。決めたからには、しっかり頼むぞ」
かくして俺たちの腹は決まった。
後は不退転の決意をもって、進むだけだ。




