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4.海相を排除しよう

明治38年(1905)6月1日 皇居


「そ、それは真のことなのか? それでは私が、乃木の息子を殺したことになる」

「あ、いえ。それは陛下の勅を利用して、乃木将軍に無理攻めをさせた者がいる、ということです。決して陛下のせいではありません」

「しかし勅が出たということは、私がそれを認めたということだ。つまり――」

「冷静になってください。陛下が認めたということは、誰かが虚偽の報告をしたはずです。203高地の攻略が決まった際、海相や次長はどう言っていましたか?」


 陛下はひとつ深呼吸をすると、しばし記憶を探っていた。


「……たしか、年始にはバルチック艦隊が来航する恐れがあるので、大至急203高地を奪取し、旅順艦隊を無力化すべし、と言っていたと思う」

「そうですか。しかしその頃、バルチック艦隊の本隊は、アフリカ西岸のダカールにいました。そこから日本海へ入るには、どんなに順調でも今年の2月であったはずです。実際にはロシア側のゴタゴタもあって、さらに3ヶ月も遅れましたね」


 御前会議は昨年の11月14日に開催されたのだが、この頃バルチック艦隊の本隊は、まだダカールにいた。

 そこから普通に計算すれば、どう考えても来航は2月以降になる。

 つまり海軍は、1ヶ月もサバを読んでいたのだ。


「それは……それは未来の知識でこそ、知り得る情報なのではないか?」

「いいえ、欧州に駐在する公使や武官、さらにはイギリスの協力によって、バルチック艦隊の動向は常に監視されていました。政府と大本営が、それを知らなかったはずがありません」

「そういう、ことか……」


 陛下がそうつぶやく横で、今度は皇太子殿下が訊ねる。


「君の言いたいことは大体わかった。もしそれが事実なら、由々しきことだ。厳正に対処する必要があるだろう。しかし真っ先に提案するべきことでも、ないと思うのだがね」

「おっしゃることは、ごもっともです。しかしこの提案には、別の狙いがあるのです」

「ほう、それは何かな?」


 ここで俺は、茶で喉を潤してからその狙いを話す。


「本当の狙いは、海軍の建て直しです。そして山本海相は、その最大の障害になるのです」


 すると陛下たちは、意外そうな顔で言う。


「バルチック艦隊を見事に打ち破った海軍に、問題があると言うのかい?」

「うむ、権兵衛が進めてきた海軍の強化が、ここに花開いたと言ってもよいだろう」


 俺はそれにうなずきつつ、言葉を返す。


「ええ、東郷提督の艦隊指揮や、将兵たちの奮戦は、お見事だったと思います。山本海相による艦隊の増強も、正解だったんでしょう。しかし今回の成果で帝国海軍は、その本質を見失ってしまいます」

「……それはどういうことだい?」


 殿下が戸惑いがちに訊ねる。


「最大の問題は、勝ちすぎたことによる慢心です。これによって海軍は、従来のやり方に自信を持ちすぎ、組織は拡大の一途をたどります」

「それは……たしかにあると思うが、権兵衛と関係があるのかい?」

「大ありですね。山本海相は国難に際しても、取り引きを持ち出すようなお人です。史実でも彼は艦隊の強化にのめり込み、国家予算の3割を分捕るようになります。海軍のことしか考えられない人物をトッブに据えていては、今後の日本のためになりません。早急に退場してもらう必要があります」


 陛下たちが絶句しているが、俺は構わず続ける。


「海軍の本来の使命は、味方の海上輸送路を守り、逆に敵の輸送路を破壊することです。艦隊決戦は、そのための手段のひとつに過ぎません。しかし日本海軍は、日清・日露戦争で海戦に勝利したため、艦隊決戦主義にはまり込みます。30年後の連中なんて、ひどいもんですよ。”輸送船の護衛なんて、女子供の仕事だ。俺たちの力は、敵艦隊を打ち破るためにある”などと、平気で言うんですから」

「それは……たしかにひどいな」


 殿下が苦笑いする横で、陛下は鋭い視線を俺に向ける。


「なるほど。海軍の熱狂に水を差すために、権兵衛を排除するか?」

「はい、そのとおりです。それに山本海相も、許せませんからね。実は今日、話したようなことは、あまり未来では知られてないんですよ。どうやら海軍の悪行が、隠蔽されたようでしてね。おかげで乃木将軍は、無謀な突撃を繰り返した無能だと言われている。海軍に犠牲を強いられ、息子さんまでも失った将軍がそれでは、あまりにもひどいじゃないですか」


 すると陛下の顔が、また悲しみに曇る。

 おそらく乃木将軍に迷惑を掛けてしまったことを、深く悔やんでいるのだろう。

 陛下はひとつ深呼吸をすると、話を締めくくった。


「君の言いたいことは、よく分かった。この件は私に預けてくれ。悪いようにはしない」

「はい、お願いします。海相や次長が事態を隠蔽するかもしれないので、慎重にお進めください。余計なことかもしれませんが」

「いや、助言は感謝する。くれぐれも気をつけよう。部屋を用意させるから、君たちも休みたまえ。長々と悪かったな」

「いえ、こちらこそ、ありがとうございました」


 こうして明治天皇との会談が、ようやく終わった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 それから部屋があてがわれ、ようやく一息つけた。

 ただし部屋の外には衛士が2名も控えていて、ばっちりと監視されている。


「ふ~、疲れたな。祐一がしゃべってばかりだったけど、俺たちも緊張したよ」

「うん、そうだね。それにしても、本当に僕たちって、明治に来ちゃったのかな?」

「信じられんのは分かるけど、それ以外に説明、つかんやろう」


 後島、中島、佐島がそんな話をする横で、川島が俺をつついた。


「祐一、なんであんなこと言ったんだよ? 実際に必要だとしても、先に相談するべきだったんじゃないか?」


 そう言われ、俺は素直に謝った。


「ああ、相談なしでやったのは、悪かった。だけどこの件だけは、早く片づけておきたかったんだ。何度も考えてきたことだからな」

「そういえば、前からそんな妄想をしてるって言ってたっけ」

「ああ、おそらく大日本帝国が道を誤る、最大の転換点なんだ。ここは」

「たしかに、この後はひどいからな」


 川島もそれ以上は追求せず、とりあえず言っただけという感じだ。

 すると今度は後島が、今後の展開に話を移す。


「ふ~む、とりあえず初動はこれでいいとして、今後どうするかねえ」

「たしか6月1日って、日本海海戦が終わったばかりだよね。その後はえ~と…………ああ、アメリカが講和を仲介してくれるのか」


 中島がパソコンで確認して言うと、佐島がその先を続ける。


「そうや。たしかこの後、ロシアが交渉には応じるんやけど、賠償も割譲もせえへんゆうて、ゴネるやんな」

「そうそう、全権大使がロシア皇帝に、”絶対に譲歩するな”って言われちゃうんだよね。それからえ~と……日本が賠償金を惜しんで、交渉が破談しかけるのか。結局、樺太の半分割譲だけで妥協するんだよね」


 そんな中島の言葉に、俺が補足を入れる。


「実は上手くやれば、樺太の全島を分捕れたらしいな。その点はぜひ、助言しようぜ」

「おっ、それええな。北部には油田があるさかい」


 俺の言葉に、すかさず佐島が反応する。

 化学屋の佐島は、油田関係の情報にも詳しいのだ。

 すると川島がそれに同調する。


「それだったら、満州にも油田あるよな。大慶油田だっけか」

「せやせや。たしかこの戦争で満鉄の利権を得られるから、その開発と絡めればけっこういけるかもしれへんで」

「満鉄っていえば、桂・ハリマン協定があったよな。小村外相のせいでポシャったっていう」

「おお、あれは受けた方が良かったんじゃないか? アメリカが金を出してくれるんなら、こっちは大助かりだ」

「う~ん、でもせっかく得た利権を持ってかれるのは、国民が良く思わないんじゃないかなぁ?」


 そんな風に盛り上がっていく空気に、俺は制止を掛けた。


「おいおい。あまり突っ走るんじゃないって。それよりも基本方針を決めようぜ」

「自分が最初に突っ走ったくせに……」

「いや、確かに基本方針は必要だな。それはほら、あれだろ? どこまで介入するかとか、どこまで情報を出すかみたいな」


 中島が愚痴るのを尻目に、川島が同調してくれた。


「そうそう、そんな感じ。俺たちの強みって、現代知識もあるけど、歴史を知ってることの方が大きいと思うんだ」

「だな。あまり大胆に介入すると、歴史が変わって、それが通じなくなる恐れがあるな」

「な~る……そういう意味では、歴史介入は最小限にして、陰でコソコソやるのがええか?」


 後島も話に乗れば、佐島もそこに加わる。


「とはいえ、戦争になっても困らないぐらい、国力を増強するんだろ? それに少々、目立ってでも、やるべきことはある。だったら多少の歴史改変は、覚悟しておくべきだ」

「そうだな。コソコソやれるのは、せいぜい第1次大戦までだと思う。そこからは違う歴史になるものと思って、やってくんだろうな」

「第1次大戦か……9年後だな。それならやれることも多いか」

「せやな。まあ、これだけ人材が揃ってるんや。なんとかなるんちゃう?」

「いやいや、みんな楽観的すぎじゃない?」


 そんな話をしつつ、明治最初の夜はふけていった。

ということで、まずは山本大将の排除に動きました。

別に彼が全て悪いとは思いませんが、彼が海軍を牛耳っていたのは事実です。

その責任は大きく、さらに海軍の改革をするにも邪魔なので、早々に消えてもらうことにしました。

史実同様、今後は政治家として活躍するかも。

描きませんが。w


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