幕間:とある憲兵のつぶやき2
俺の名は山本 正二。
入隊3年めの、しがない憲兵である。
憲兵といえば、陸軍の警察だ。
軍内の犯罪を取り締まったり、治安維持や防諜にも従事する。
しかし今の俺は、なぜか軍属の護衛をやらされていた。
その対象がまた妙な連中で、4人の技術者と1人の商人なのだ。
年はみんな、34歳だとか。
外見は普通の庶民っぽいんだが、元老の関係者だと言われている。
それだけなら護衛なんか付かないが、どうやら軍の機密に深く関わってるらしい。
機密ってなんだと思うだろ?
俺にもよく分からないんだが、大島って人は主に自動車関係の企業を回ってる。
それから後島さんは金属関係だし、中島さんは電気関係で、佐島さんは化学関係の仕事をしている。
そして川島さんは、愛国商会の幹部だそうだ。
妙な組み合わせだと思うけど、彼らはしばしば一緒に行動する。
この間は所沢の飛行場に行ってたし、その前は海軍艦政本部にも行ってた。
傍から見た感じ、多くの人々から敬意を払われてる。
実に不思議な人たちだ。
ずっと気になってたんで、ある日、分隊長に聞いてみた。
「あの~、我々の護衛対象って、どういう方なんですかね?」
すると分隊長はギロリとにらんで、重い口を開いた。
「何も聞くな、と言いたいところだが、お前もそれでは納得がいかんだろう。他言無用で少し教えてやる。端的にいえば、軍内の改革計画の協力者だな」
「へ~、改革っていうほど、何か凄い計画が進んでるんですか?」
「俺も詳しいことは知らんが、あの人たちのおかげで、我が軍の装備や戦術は、10年は進歩したって話だぞ」
「ええっ、10年も! 凄いじゃないですか」
思わず驚愕の声を上げると、分隊長がうなずいて先を続ける。
「ああ、凄いんだ。だから軍や政財界の重鎮が後ろ盾になってるし、各学会でも一目おかれている」
「うへえ、そんなに凄い人たちだったのか。今後は礼儀正しく接しないと」
すると分隊長が苦笑して言う。
「別にかしこまらんでいいぞ。あの人たちはそういうの、嫌うからな。それよりも、命を懸けてでも守る覚悟を持っておけ」
「えっ、そんなにヤバい状況なんですか?」
「今のところはそうでもない。だが彼らの貢献が周知されると、国外からも狙われかねん。もしも彼らが殺されたり、さらわれでもしたら、国家の大損失だ。心に刻んでおけ」
「うへ~、了解しました。認識を改めます」
「うむ、それでいい。ああ、ちなみにこの話を外部に漏らしたら、家族もろともしょっぴかれるからな。気をつけろ」
「……は、了解であります」
分隊長はにこやかに忠告してくれたが、目が笑っていなかった。
これはガチでヤバい話だ。
うっかり口を滑らさないよう、気をつけなきゃ。
その後、認識を改めて見直すと、彼らの凄さが分かってきた。
技術者組は日夜、関連産業の振興に奔走しているし、川島さんも愛国商会の仕事で走り回っている。
特に愛国商会ってのは、しばしば慈善事業で名前を聞く会社だ。
皇族を顧問にする商会で、被災地で食料援助したり、零細企業への低利融資なんかも積極的にやっている。
てっきり税金が投入されてると思ってたが、実は自力で稼いでるらしいんだ。
そしてその中核となるのが、例の川島さんらしい。
たしかに、頭よさそうな顔してるもんな。
技術者組も、彼に劣らず凄いらしい。
国内の先進的な特許のほとんどに、彼らが絡んでいるというんだから、もう想像もつかない。
そりゃあ、海外から狙われても不思議じゃないな。
しかし本当に凄いのはそこじゃない。
あれだけのことをやっておきながら、利権をむさぼる様子が、一切ないことだ。
しかも他人にいばり散らすこともしない。
こんな下っ端の憲兵にも敬意を払ってくれるし、民間企業にも礼儀正しい。
最近はそうでもないけど、軍人ってのはいばる存在だったんだよな。
それを大島さんたちは率先して変え、民間の力を引き出そうとしている。
うん、本当に凄い人たちだ。
それだけじゃない。
最近、うらやましいなって思うのが、彼らの信頼関係なんだよな。
一見、バラバラに動いているようで、常に連携して助け合ってるんだ。
それはもう見事な関係で、ねたましさすら覚える。
俺にもあんな仲間が居たらなぁ。
まぎれもなく、彼らは日本を支える至宝であり、かけがえのない存在だ。
そんな彼らを守れるなら、この生命さえ惜しくない。
最近はそんなことを思うようになった。
次回から昭和編です。
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