幕間:人を救えるなら
【後島慎二】
「ほい、銅の精錬作業について、まとめといたぞ」
「お、サンキュー。参考にさせてもらうわ」
作成した資料をメモリーに入れて渡すと、四郎がすかさずパソコンにデータを移す。
「しっかし、こんなんで足尾の鉱害、抑えられるかな?」
「まあ、大丈夫やろ。実際に鉱物が悪さするのは分かっとるんやから、ピンポイントで検出できる。後は官僚のケツ叩いて、対策させたらええねん」
「う~ん、だけどそれが毒だって事も、証明しないといけないし……」
「あ~、せやな。人体への影響も、証明してかんといかんか。となると医療関係者も、巻きこむ必要があるで」
「う~、やっぱそうだよな。うわ、また仕事が増える」
思わず頭を抱えていると、四郎がなんでもないように言う。
「そんなもん、祐一たちに手伝わせりゃええねん。1人で抱えこむなや」
「えっ、でも俺たちがやるって言ったし」
「別に俺らが、さぼってるわけやないやろ? それに人命が関わるような案件、あいつらが断るわけないやん」
「あ~、まあ、そうだね。被害を減らすには時間も大事だから、頼んじゃうか」
「せやせや。俺らは目の前の仕事、片付けよやないか」
「うん、分かった」
その後、祐一と正三に頼んだら、二つ返事で引き受けてくれた。
俺の考え過ぎだったみたい。
思わず、現代の会社生活を思い出しちゃったよ。
あの時も人に遠慮して、仕事を抱えこむ傾向にあった。
そんなんじゃいけないと思ってても、言えないんだよな~。
さすがにこの5人の間なら、わりと言いたいこと言えるんだけど。
他の人にもちゃんと、意見を言えるようにしないとな。
なんてったって、国の運命が懸かってるんだから。
よ~し、がんばるぞ~。
【中島正三】
「というわけでさ、医療関係者にも協力して欲しいんだ。さすがに俺と四郎だけじゃ、手が回らないから、手伝ってもらえる?」
「…………そうか。考えてみれば当然だよな。いいよ。俺と正三でやってみる」
「え、大丈夫?」
「なんとかなるって。これも日本のためだろ?」
「……まあ、そうなんだけどさ」
「助かるよ。俺たちも手が空いたら、手伝うから」
「気にすんな。まずはそっちの仕事を、しっかりな」
あ~あ、祐一ったら、簡単に引き受けちゃって。
そりゃあ、慎二や四郎だけじゃ大変だろうけどさ。
こっちだってけっこう、忙しいんだよ。
「医療関係者を探すにしても、どうすんのさ? また官僚に聞くの?」
「いや、それも手なんだが、別口を当たろうと思ってる」
「別口って?」
「北里柴三郎って、いるだろ? あのペストで有名な」
「そりゃあ知ってるけど、専門が違うんじゃない? あの先生は、伝染病とかそういうのでしょ?」
そう指摘すると、祐一はニヤリと笑った。
「専門が違うなら、適任者を紹介してもらえばいいんだ。それよりも、北里さんと面識を得ることが目的なのさ」
「会ってどうするのさ?」
「感染症の薬とかを、作ってもらおうと思ってる。ペニシリンとか、ストレプトマイシンみたいなやつ」
「ええっ、僕たちにそんな知識、ないでしょ」
すかさず突っこんでも、彼は平然と答える。
「別に専門知識がなくても、なんとかなるだろ。俺たちがうっすら知ってる事を伝えるだけでも、役に立つかもしれない」
「そんないい加減な……」
「いい加減かもしれないけど、上手くいけば人を救えるんだぞ。それこそ、公害より何十倍も多くの人を」
「……う~ん、それもそうか」
たしかに成功すれば、公害対策よりよほど効果が大きい。
結核は不治の病として、恐れられてたって話だし。
多くの人を救えるなら、僕もがんばるか。
その後、祐一は本当に北里博士に渡りをつけ、会いに行った。
しかも陛下の紹介状を使って、信頼を勝ち取ったりして。
それから僕たちは、ちょくちょく博士と会って、つたない医療知識を伝えるようになる。
まだモノになるか分からない事が多いけど、博士はすっごく興奮してた。
祐一の話も上手いんだよね。
下手をすると、詐欺師かと思うくらい。
公害対策についても、ちゃんと進展してる。
そっち関係に強い人を紹介してもらって、データ収集に協力してもらった。
なんか北里博士って非主流派らしくて、その分、真面目な知り合いが多いみたい。
結果的に、収まるとこに収まったのかな。
もっとも、僕の仕事は増えてるけどね。(怒)




