幕間:とある憲兵のつぶやき
俺の名は田中 一郎。
入隊5年めの、しがない憲兵だ。
そんな俺がある日、急に上司に呼び出された。
「貴様に特命がくだった。この場所に出頭し、現地の指示を仰げ」
「はっ、謹んで拝命いたします」
なんの説明もなしに、出向を命じられた。
俺、何かまずいことしたかな?
不安を抱えて指定の場所に赴けば、そこには5人の先客がいた。
その中で最も階級の高い男から、声が上がる。
「よし、揃ったな。俺は鈴木 孫次。この分隊を預かることになった」
そう言って彼は、俺たちに辞令を渡す。
「見ての通り、諸君は特別警護分隊に配属された。護衛対象はこの5人で、少尉待遇の軍属になる。ただし素性は探るな。やんごとなきお方が背後にいるし、本人たちも貴重な技能を持っているそうだ。対応は慎重にしろ」
なんかとんでもない事を言われ、思わず質問する。
「ちょ、ちょっと待ってください。そのような大任、なぜ私たちに回ってくるのでしょうか? もっとふさわしい者がいると思いますが」
「それについては、秘匿性を重視しているが故だ。あまり名のある者を集めると、注目も集めてしまう。もちろん、諸君の能力を認めたうえでの人選であることも間違いない」
「はっ、ご教示ありがとうございます」
とても納得はできなかったが、その後は黙っていた。
彼の説明によると、護衛対象は貴重な技能を持っており、国力の増強に取り組むらしい。
そんな対象は余人を持って代えられない存在であり、命がけで守れと厳命された。
すると他の隊員が質問する。
「命がけで守れと言われますが、すでに敵性勢力が判明しているのでしょうか?」
「いや、現状は彼らも無名のため、そんなものは存在しない。しかし彼らが結果を出せば、利権を求めて有象無象が群がってくる可能性がある。それこそ、海外からの干渉すら覚悟しているほどだ」
「そ、それほどですか?」
「ああ、それほどらしい。肝に銘じておけよ」
うわ、なんか俺、凄い貧乏くじ引いたかもしんない。
やがて護衛対象に対面したのは、砲兵工廠だった。
警備上の都合、彼らはここに住んでいるとの話だ。
「あ、大島祐一です」
「後島慎二で~す」
「中島正三です」
「佐島四郎や」
「川島健吾です」
一見、普通の少年たちのようだが、どこか雰囲気が違った。
礼儀正しいので、最初は上流階級かと思ったが、所作は庶民そのものだ。
とりあえず仲のいい連中なので、俺たちは彼らを5人組と呼ぶことにした。
それはさておき、彼らはすぐに動きはじめた。
まず霞が関に行ったのにも驚いたが、官僚がていねいに応対しているのが不気味だった。
よほど上から指示が降りているらしく、5人組の望む資料は、ただちに届けられる。
彼らは資料を精査したり、時には何かを議論していた。
漏れ聞いたところでは、自動車や製鉄など、この国の工業力を増強したいらしい。
若いにもかかわらず、知識が豊富なようで、小難しい話もしょっちゅうだ。
やがて机上の作業に目処がつくと、視察に出かけはじめた。
それも行先は全国に渡っているうえ、目的が違うということで、バラバラに動きやがる。
1人にしてはおけないので、俺たちも交代でそれぞれに付き添った。
もちろん人手が足りないので、早々に増強されている。
幸いにも事件は起きていないが、俺たちは心の休まる暇がなく、心労が半端でない。
早く交代させてくれねえかなぁ?
そんなある日、護衛を終えて詰め所に戻ると、隊長がいたので報告する。
「後島さんの護衛、無事に終わりました」
「ご苦労。今日はどうだった?」
「特に異常はありません。それにしても、製鉄や鉱山の関係者を回って、どうしようってんですかね?」
思わず質問したら、隊長が顔を上げた。
「前から言ってるように、我が国の工業力を底上げするそうだ」
「はあ、それは聞いていますが、あんな子供に何ができるって言うんです?」
「子供に見えるかもしれんが、中身は相当なもんだぞ。俺もひと通り付き合ったが、かなりの科学知識を持っている」
「でも、知識だけで、どうにかなるもんじゃありませんよね?」
「そうかな? 俺には彼らが、何かとんでもないことをやってくれるように思えるがな」
隊長がそう言うのを聞いて、改めて疑問が湧いた。
「彼ら、本当に何者なんですかね? ただの上流階級でもなさそうだし……」
「フ、それ以上は詮索するな。今は謎だが、いずれ彼らを護衛できたことを、誇りに思う日がくるかもしれんぞ。愚痴ぐらいは聞いてやるから、今は我慢しろ」
「は、失礼しました」
ずいぶん期待してる風だから、隊長は何か知ってるんだろうな。
本当に今の仕事を誇りに思う日が、来るのかねえ。
ま、どうせそれを感じられるのも、数年後だろう。
今は黙って、命令に従いますか。




