9.ドキッとしちゃう
石畳の上で、相変わらず痙攣し続ける神官を救護するため、騎士の一人が増援を呼びに向かう。三人は、その場に残って応急措置をするみたい。
あんな嫌われ者っぽい奴でも、さすがに放っておくわけにはいかないものね。
ということで隊長格の騎士が一人で、私たちを大神官の元に連れていってくれることになった。
「それでは参りましょうか」
騎士の言葉と共に、アッシュは面白くなさそうに彼の後をついて歩き始める。
それにしても、彼が司祭をぶっ飛ばしたのって、単にムカついたってことだけが理由なのかしら?
もし、そうではなく別の理由だったとしたら嬉しいけど。わたしの事を思っての行動だったり……なんてことは流石にないわよね。
「少しは良いとこあるじゃないの」
期待はしてなかったけど、何となく探りを入れるつもりでそう言葉をかけてみる。
「はぁ? お前の言うことも一理あるって思ったから、仕方なく今回は応じてやるだけだ!」
「違うわよ。嫌味なことを言うムカつく司祭を、ぶっ飛ばしてくれたじゃない」
「お前、なんか勘違いしてないか? あの醜悪な顔の司祭は俺の前に居るだけで目障りだったし、息が臭くて堪らなかったからぶっ飛ばしてやったまでだ!」
やっぱり素直に、わたしのためだった、なんてことは言うはずがないわよね。て言うか本気でそれが理由なら、どんだけ理不尽極まりない野郎なのよ。
でも、わたしの意見を聞き入れてくれたのも事実。口ではあんな風に言ってみても、実際はそこまで悪い奴でもないのかもしれない。
「ほんと素直じゃないんだから」
わたしったら、何を言ってるのかしら。
アッシュが、わたしに対して好意を持ってくれているはずなんてないんだけど。何となくそんな言葉が出てしまった。
以前の私だったら、とても考えられないことだわ。
そもそも、クラスの男子とだって真面に会話したこともなかったのに。下品だけど、これほど美丈夫な人にこんな事を言ってしまうなんて。絶体絶命を経験したことで、自分でも信じられないくらい吹っ切れちゃってたみたいね。
「ふざけたこと言ってんじゃねーぞカナエ! 犯されてーのか?」
当然アッシュからそんな反応をされたわけだけど、完全否定まではしなかったよね? しかも、今わたしのこと初めて名前で呼んでくれた。
彼にだったら犯されても構わない、なんてついうっかり思っちゃうところだったわ。
て言うか、少しでも本気でそんな気持ちがあるんだとしたら、わたしに対して犯したいと思うくらいには魅力を感じてるってこと?
なんかいろいろと妄想してたら、自然と顔が赤くなってきちゃうわね。
「そんなこと言われたって、全然怖くないんだからね! わたしに嫌われたら、あなただって困るんじゃないの?」
ちょっとだけ、さっきみたいな反応を期待して、そんな風に言ってみるわたし。だけど彼は軽く溜め息をついただけで、今度は特に否定も肯定もしなかった。
「カナエ殿は、魔人様とずいぶん親密な間柄のようですね?」
会話に入りたかったのか、そんな無理のある事を急に言いだす騎士さん。
当然アッシュは、彼の言葉に対してすぐに反応した。
「へんっ! ついさっき初めて会ったばかりの小娘と、すぐに親密な関係になるわきゃねーだろ……まぁ、こいつはもう俺の女だけどな」
えっ? 今、なんと申しましたか? なんか、俺の女、とか言ったような言わなかったような。
人のこと狸娘だなんて言ってたくせに、結局わたしに対して興味があるんじゃない。
それとも、取りあえず女だったら手当たり次第ってやつなのかしら。
言い方は乱暴だけど、そんな風に言われて私は少し嬉しい気持ちになる。
「なんだよ気持ちわりーな……そんな目で見てくんなよ」
自然と表情が緩んでいたみたい。わたしの顔を見て、アッシュはまたそんな風に悪態をつく。
でも、そう言ってそっぽを向く彼の横顔は、少しだけ照れくさいのを隠しきれてないといった感じにも見えた。
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