10.実は満更でもなかったりして
街は難民と思われる人々で溢れ返り、荒んだ雰囲気となっていた。
役人とおぼしき者たちと、着の身着のままでここにやってきたといった感じの人たちが、あちらこちらでトラブルを起こしている。
この町にたどり着いて、やっと一安心したのも束の間。ムカつく司祭が言っていた事でも分かるとおり、きっと迷惑な存在として扱われてしまっているのね。
横柄な態度を取る役人たちに対して、やり場のない不安な気持ちをぶつけているといった感じ。
役人たちだって、上からの命令でやってる事なんだから辛いわよね。
でも、このままじゃそのうち暴動に発展してしまいそうな雰囲気。
「ねぇ、騎士さん。あの司祭が言っていた事は、町全体としての方針なの?」
状況的に仕方がない事だとは思いつつも、心が痛んだ私は騎士に対してそう質問してみる。
「この状況では、そうならざるを得ませんね。しかし大神官様は、できる限り難民たちを受け入れるよう指示を出していましたが」
なるほどね。なんとなく理解したわ。そんな曖昧な指示だったものだから、治療中で動けないのを良いことに勝手に受け入れを打ち切ったって感じ?
でも確かに、このままじゃ共倒れになってしまうのは必定よね。ほんと、世紀末まっしぐらって感じだわ。
急にものすごい視線を感じた私は、アッシュの方に目を向ける。なんだか彼はとても不満顔。
まさかとは思うけど、わたしが騎士と会話したことが気にくわなかったのかしら?
「なによアッシュ。なんか文句でもあるの?」
「ああ、俺様の許可無しに他の男と会話してんじゃねー!」
やっぱり、わたしが騎士に話しかけたことが原因だった。て言うか、これって嫉妬っていうやつなの?
好意を抱いてくれているのかは別としても、自分の女だって言ってるくらいだから、わたしって彼の感覚としては単に所有物扱いなのかもしれないわね。
ペットの分際で飼い主以外の人間に懐いてんじゃねー! ってところかしら?
ええ、分かりますとも。わたしみたいな平凡な容姿の女が、彼みたいな美丈夫に好意を持ってもらえるわけがないもの。
「なによ! 聞きたいことを訊くらい良いじゃないの!」
「いや、絶対にダメだ! 今度また同じことをしたら、本当に犯すかんな!」
その言い方だと、さっきの「犯す」はただの脅しだったみたいね。と言うことは単なる照れ隠し? 凶悪なふりしてるけど、意外と可愛いとこあるじゃない。
「そんなこと言ったって、どーせ女だったら誰でもいいんでしょ!」
「はぁ? んなわけないだろ! 俺様はけっこう面食いなんだ」
えっ? それって、そういう意味で良いのよね? 狙って言ってる感じでもないし、アッシュって意外と無自覚な女ったらしなのかしら。もし、ちゃんと自覚しての発言だとしたら、わたしって彼の好みのうちに入るってことにならない?
考えれば考えるほど、顔がどんどん熱くなってきちゃう。って、いかんいかん、勘違いしちゃダメ! たぶん今の言葉に、そんな深い意味なんてないのよきっと。
軽くパニック状態になった私は、次に出す言葉を完全に失ってしまう。
ハッと我に返り騎士さんの方に目をやると、彼は気まずそうに苦笑いしていた。
道中いろいろと説明したかっただろうけど、私たちがこんな会話をしていたら話に入りにくいわよね。て言うか、まだ名前すら聞いてない。きっと彼も、自己紹介するタイミングを逸してしまったんだわ。
でも、今アッシュに言われたばかりでこちらから訊くわけにもいかないし、どうしたものかしらね。
そんなことを考えてるうちに、立派な三階建ての建物の前に到着する。
「この町の庁舎です。大神官様は、ここで治療を受けながら指揮を執っておられます。といっても先ほどご指摘されたとおり、他の司祭たちや町の幹部らが勝手に物事を進めはじめておりますが」
騎士さんの説明で、状況は完全に理解したわ。兎に角まずはアッシュの機嫌を取るために、さっさっと大神官に会って食事にありつかないといけないわね。
そういえば、大神官に会うのは久しぶりだわ。他のクラスメイト達は違うだろうけど、底辺のわたしは召喚されたときに一度会ったっきり。
確か役柄のわりに、武闘派って感じのかなり厳つい体格の人だったわね。
救援に駆けつけた召喚者が、わたしだけだって知ったらガッカリするかしら。アッシュが必ず協力してくれるとも限らないし、会うのが少し心配。
騎士さんに誘われ、わたしは意を決して庁舎の中に入る。
多くの役人が街の対応で出払ってるのか、入口付近のフロアには閑散とした空気が漂っていた。




