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11.手綱を握る



 閑散とするフロアを抜け奥の部屋に向かうと、そこには全身包帯姿の人がベッドに横たわっていた。

 その部屋は見るからに、普段は休憩所として使われているような場所。

 大神官はかなりの大男だったし、重傷を負っていて上の階には運び込めなかったのかしら。

 そんな状況から、当時の切迫していた様子が伝わってくるわ。

 良く見ると、両腕も失ってしまっているみたい。ほんと痛々しい限りね。


 部屋に入る前に騎士さんが用件を伝えていたので、すぐに彼とのやり取りは開始される。

 このとき初めて、騎士さんの名前がシェンカさんだということが分かった。


「魔人だと? 今ここに来ているのか?」


 両方の目にも包帯が巻かれているし、場合によっては失明もしているのかもしれない。


「はい、召喚者のカナエ殿も一緒におられます」

「話が掴めんな。いきなり魔人が来ていると言われても、それがどういう状況なのか全くわからん」

「例の秘宝ですよ! どうやら国王が安全な場所に移動させるため、カナエ殿に護送を頼んでいたようです。彼女の説明によるとその箱の中身が、こちらにいらっしゃる魔人様ということらしいですね」

「それで、その魔人様とやらは、我々にとって味方ということで良いのか?」


 大神官の問いに対して、アッシュは即座に反応する。


「へんっ! ふざけんなよ! 誰が、糞みてーな人間どもの助けになってやるってんだ! 俺は、ただここに飯を食いにきてやっただけだぜ」


 彼にしてみれば当然の反応だろうけど、もう少しマシなこと言えなかったのかしらね。ほんと、聞いてるこっちが恥ずかしくなっちゃうわ。


「ちょっとアッシュ! ご飯を食べさせてもらうなら、少しくらいは協力してあげなきゃダメでしょ?」

「あん? そんなの関係ねーな。俺様は俺様のやりたいようにやるだけだ!」


 そんな感じで悪ぶってみせても、素直になれないだけなのは分かってる。あとは、どう説得したらやる気になってくれるかだけよ。


「なによ! ガーゴイルの群れを一瞬で殲滅してしまうくらい強いんだから、少しくらい町の人たちの為に力を使ってあげたっていいじゃない……」


 彼の良心を信じて。わたしは、目に涙を浮かべながらそう感情に訴えかける。

 演技じみてるかもしれないけど、聞き分けの悪い彼に対して悲しくなったのも事実。

 そんな私の様子が功を奏したのか、俺様キャラの魔人様はこのあと思いもよらない反応を示した。


「それがお前の望みなのか?」


 急にそう言い出すアッシュの真剣な表情に、わたしは一瞬で心を奪われる。

 わたしが反応に困っていると、彼は更に言葉を続けた。


「お前がそうして欲しいってんなら、頼まれてやらんでもないがな」


 なんだか良くわからないけど、せっかくそう言ってくれてるんだからお願いしない理由なんてない。

 すぐに我に返ったわたしは、彼の目を真っ直ぐ見つめながら短く「お願い……」とだけ言葉をかけた。


「ふん! しゃーねーな。だったら俺様のやることに一々文句つけさせんじゃねーぞ。お前がその辺しっかりしねーんなら、俺としては連中の側についたって別に構わないんだからな」


 えっ? それって私に、俺の手綱をしっかり握れって言ってるってこと? 要するに私に、尻に敷いて欲しいと……って流石にそれは過大解釈よね。

 それにしても、連中の側、って何か相手のことに関して知ってるような言い回しね。自分の名前すら真面に思い出せないくせに、ほんと意味不明だわ。

 でも、了承してくれたならこれで一安心。


「ありがとうアッシュ……民のために、一緒に頑張りましょうね!」

「ちっ、勘違いするなよ! 俺は、お前の頼みだから聞いてやるんだ! 人間どものことなんて、どーでもいいって思ってるのだけは頭に入れておけ!」


 そんな風に言われたら、余計に勘違いするじゃないの。て言うか、これって強ち勘違いでもないのかしらね。

 もうそんな事を考えてたら、顔が熱くなってきてしまってどうにかなっちゃいそう。

 お願いだから大神官様にシェンカさん、彼になんとか言ってやってよ!

 でも、この短い時間でなんとなく彼の性格を把握したのか、二人は特に口出しをしようとはしない。

 余計なことを言ったら、せっかく味方になってくれそうな雰囲気が台無しになる、って咄嗟に判断した感じなのかしら。


 本当に無自覚なだけなのか、言うだけ言って彼は「じゃ、さっさと飯の用意でもしてもらおうか」といきなり話を変える。


「こんな状況ですから、満足いくものをご用意できないかもしれませんが。できる限りの礼は尽くさせてもらいます」


 すぐに空気を察してくれたシェンカさんは、そう言ったあと私たちに対して一緒に部屋を出るよう促す。

 彼が言うとおりこんな状況だし、きっとアッシュは出てきた料理にも文句をつけるに違いないわ。

 そんな不安を抱えながらも、私は大神官に一礼すると彼の手を取り部屋を後にした。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

皆様の評価が、創作活動を続けていくうえでの大きな励みとなります。

少しでも面白い、続きが気になると思われましたらブックマークだけでも頂けると幸いです。

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