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12.お別れなんてしたくないかも



 シェンカさんは、私たちを三階の会議室に案内すると、食事の準備をさせるためすぐに部屋を出ていった。

 彼の話では、この建物の二階に食堂があるらしく、今のところなんとか運用自体はされているみたい。

 アッシュは、椅子に腰かけるなりテーブルに足を投げ出して偉そうな態度。


「どんな物が出てきても、文句なんか言っちゃダメだからね!」

「へいへい、んなこた~分かってら。俺だって別に期待なんざしてねーし。てきとーに魔物どもをぶっ潰してやったら、まだ無事そうなデカイ町にでも移動して、そんときに思う存分ゆっくりと豪遊させてもらうさ」


 豪遊するって……わたしのお金を当てにしてないわよね? ちゃんと言ったはずだけど、贅沢できる程のお金なんて持ってないわ。

 それに、まだ無事そうなデカイ町って、気配感知の能力で次の目的地をもう見つけているのかしら?

 だとしたら、本気でこの国の人々を救う気なんてないってこと? ほんとにこの人ってば、いったい何がしたいっていうのよ。


「大きな町に移動して豪遊するのは、まぁ良いとしてもさ。そんな事を繰り返してたら、そのうちこの世界の人間自体が絶滅しちゃうわよ? もしそうなってしまったら、遊ぶもなにも無くなっちゃうと思うんだけど」


 図らずも、痛いところをついてやったみたい。わたしの言葉を聞いたアッシュは、急にあれこれ考えはじめた様子になる。

 真剣に悩んでるというよりかは、たまに舌打ちしてみたり、あ゛ーって叫んでみたり。でも、何となく葛藤してるのだけは分かるわ。


「ちっ、外からきた神の信者になった人間どもを、救ってやる義理なんてねーけどな。遊べなくなるってのも確かに困るか」


 さっきまで悩んでたと思ったら、急にそんな事を言い出すアッシュ。それって、わたしの意見を聞き入れてくれたってこと? て言うか彼にとってこの世界は、単なる遊び場でしかないのかしら?


「遊ぶにしたってお金も必要でしょ? 何ならこの辺りの魔物を操っているボスを倒して、この国の英雄にでもなっちゃえば良いじゃない。そうすれば、豪遊するだけの報酬だってもらえるかもしれないわよ?」


 わたしは、すぐにそう言って畳み掛ける。

 せっかくその気になりかけてくれたんだもん。ここは一気に彼の気持ちを引き寄せるチャンスだものね。


「英雄か……そんなもん心底きょーみねーけどな。まぁ、今のところ他にやりたいこともねーし、魔物どものボスを倒すところまでなら付き合ってやってもいいぜ」


 ボスを倒すところまでなら付き合ってやってもって……まるで、そこまでいったらお別れするみたいな言い方じゃない。

 俺の女だって宣言してるくらいだし、力を取り戻した途端サヨナラだなんてこと言ったりしないわよね?

 確かに冴えない陰キャの私には、過ぎたカレシだとは思うけど。せっかく良い関係になれそうなのに、用が済んだら捨てられるなんてそんなの嫌。

 って、どうして私こんなこと考えてるんだろう。


「なんだよ急に黙りこくって。せっかくやる気になってやったんだし、もっと喜んだらどうなんだ?」

「う、うん……ありがとう……わたしも報酬の交渉とか、なるべく上手くやれるように頑張ってみるよ」


 例え照れ隠しだったとしても、用が済んだらお別れだ、なんて言葉が彼の口から出てしまうのが怖くて。わたしは、その部分に関して彼の気持ちを確かめることができなかった。



 その後しばらくして、シェンカさんが給仕を伴い部屋に戻ってくる。

 運び込まれた食事は確かにご馳走とまではいかなかったけど、こんな状況にしては思ったよりも真面な感じの物だった。


 バスケットに入れられた沢山のパンに、とろみの全くないスープと簡単なサラダの入ったボウル。付け合わせが一緒に乗ったお肉の皿が、私たちの前に次々と置かれていく。

 緊張しながら給仕する女の子の様子はまるで、荒ぶる神様にお供えでもしているかのよう。


 アッシュは、料理が揃うなり頂きますも言わずに食べ始める。


「思ってた以上に普通な感じだが、まぁそんなに悪くもないな」


 感謝しろとまでは言わないけど、結局いちいち文句をつけないと気が済まないようね。こんな状況でこれだけの物を用意してもらったんだから、もう少し普通の褒め方をしても良いと思うんだけど。

 ちゃんと美味いって言ってあげないから、横に立っているお給仕さんかなり萎縮しちゃってるみたいだし。


「こんな状況なのに、こんなにたくさん用意してもらってありがとうございます。とても美味しいですし、彼もすごく満足してくれてるみたい」


 仕方がないので、わたしは彼の代わりにそう感謝を述べる。

 アッシュも食べるのに夢中なせいか、特に反論はしてこない。

 でも、それが良かったのかもしれないわね。わたしの言葉を聞いたお給仕さんの表情は、少しだけ緩んだように感じた。

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