13.襲撃
食事を終え、満足げにまた足をテーブルに投げ出すアッシュ。ほんと行儀が悪くて、こっちが恥ずかしくなっちゃうわ。
本人にその気がなくても、みんな彼に英雄としての活躍を期待してる。それなのに、見た目だけなら超がつくほどカッコ良くても、こんな下品な態度ばかり取ってたら全部台無しよ。
ほら、お給仕の女の子だって……って、なんかちょっと顔赤くない? お皿を片付けながら、彼に対してチラチラ視線を送ってるみたいだし。まさかこんな下品な行動をする奴なのに、見た目だけで惚れちゃったりしてないわよね?
まぁ兎に角これだけの事をしてもらったわけだし、その分ちゃんと約束どおりしっかりと働いてもらわなきゃだわ。
せっかくの機会だし、今後について少し話でもしておこうかしら。なんて事を考えていたけど。お給仕さんが退出した後すぐに、会議室は慌ただしい空気に包まれることになった。
お給仕の女の子と入れ替わるように、血相を変えた様子で部屋に飛び込んでくる一人の騎士。シェンカさんを見つけた彼は、無礼を謝罪することもせずいきなり叫んだ。
「魔物の襲来です! とんでもない数の魔物の群れが、この町に迫ってきています!」
「なに? 大神官様には、報告したのか!」
「はい! 騎士団長殿にこの件を伝え、陣頭指揮を取らせるようにと」
「わかった! すぐに兵を纏め、城門に向かうぞ!」
会話の内容からして、シェンカさんって騎士団長だったみたい。
それはそうと、収容を拒否されてる難民の人たちは一体どうするつもりなのかしら? まさか、彼らを外に放置したまま戦闘が開始される、なんて事にはならないわよね?
「聞いてのとおりです! ここは早速、魔人様のお力をお貸し願いたい!」
当然そうなるわよね。いよいよ魔人様の実力が証明される時だわ! ちゃんと約束どおり食事だって出してもらったんだし、冗談でも嫌だなんてこと言わせないんだから!
ある程度は予想していたけど、シェンカさんの言葉にアッシュはかなり気だるそう。
でも、深く溜め息をついた彼は、黙って重い腰を上げる。今回に関しては、ちゃんと分かってるみたいで安心したわ。
「行くぞカナエ! さっさと片付けて、報酬の交渉だ!」
どうしてこんな時に、報酬の話なんかしちゃうのよ。シェンカさん、すごく不思議がってるじゃない!
まぁでも、兎に角いちいち文句を言わなかっただけマシね。
余計なことを言うと、またひねくれた態度になっちゃうのは確実だわ。
「分かったわアッシュ! 私はただ、あなたに付いていくだけで良いの?」
「ああ、お前には魔力タンクとしての役割を務めてもらうだけだからな」
そんな言い方をされるのは、ちょっと不本意だけど。でも、一応やる気はあるみたいで良かった。
騎士団長さんの指示を待つこともなく、アッシュは私を抱き上げると部屋の窓を開け放つ。
お互いの顔が近い。前回とは違って普通に正面から抱かれてしまった。
このままだと不安定だったし、わたしは咄嗟に彼の首に手を回した。
「飛翔!」
どんだけ効果が持続するのか分からないけど、今回もまた長い詠唱はカットできたみたい。彼は私を抱いたまま、開け放った窓から大空へと飛び立った。
市街の様子は、さっきよりも沢山の人で溢れ返っていた。
さすがに魔物の群れが迫ってると聞いて、城門の守備隊は外にいた難民たちを街に招き入れたみたいね。程なくして城門の外に出ると、最初に来たとき作られていた列は完全に消え去っていた。
遠くの方に、無数の黒い影と土煙が立つ様子が窺える。何千ってレベルじゃないわ。確実に五万とか、下手したらそれ以上いるかもしれないわね。
大型の魔物も混じってるみたいで、所々に大きな影も確認できる。
「町に取りつく前に片付けるぞ!」
アッシュは、そう言うと一気に加速する。
前みたいに悲惨な状態になりたくなかった私は、黙って彼の胸に顔を埋めた。




