7.無慈悲な司祭
堂々と人だかりの中に降りていくなんて、一体何を考えてるの? そう突っ込む間もなく、アッシュは大勢の人が集まっている広場に降り立った。
当然その様子を見た人々はみな騒然となる。
「おい、あの二人。今、空から降りてこなかったか?」
「確かに、あっちの空からこちらに向かってやってきていたのを俺は見たぞ」
「騎士様に若い娘さん。ひょっとして、王都から救援に駆けつけてくれた召喚者様じゃないのか?」
難民の人たちなのかしら? そんな声が聞こえてくるなか、アッシュは私の事を静かに石畳の上に降ろすと、疲れきった様子で地べたに座り込む人々の間を歩き始める。
口は悪いけど、女の子に対する扱いだけは丁寧なのね。って、本当に丁寧ならあんな抱えかたはしないか。
何処に向かうつもりなのか分からないけど、この状況じゃ宿を取ることすらできないかもしれない。お金だって使えるか分からないわ。
「腹が減ったな……」
わたしの心配を余所に、そんな呑気なことを言うアッシュ。
何処か、こんな状況でも営業しているお店があれば良いけれど。お金の心配は取りあえずないとしても、これだけの難民が街中に殺到していたら食料不足になっていそう。
「ちょっ、ちょっと待ってよアッシュ!」
ずんずん歩いていく彼にそう声をかけた瞬間、豪奢な衣装を纏った男が、数人の騎士を伴い人だかりの中から出てくる様子が窺えた。
完全に私たちが目当てのようで、彼らは真っ直ぐこちらに向かってくる。
目の前まできた豪奢な衣装の男は、わたしを見るなりいきなり罵声を浴びせてきた。
「召喚者と聞いて来てみたが、誰かと思えばDランクの娘ではないか! お前たち召喚者が役立たずなせいで、今や王国は滅亡寸前の状態だぞ! この責任をどう取ってくれるつもりなんだ!」
わたしの事を知っているみたいだけど、召喚されたときに居た司祭のうちの一人かしら? て言うか、勝手に召喚したうえに命懸けで戦わせておいて、その言い草はないでしょ! ほんと、ふざけんじゃないわよね!
「いきなりそんなこと言われても、お門違いもいいところだわ! 民を守る責任は、あなたたち教会の人間や国にあるんじゃないの?」
あまりにもムカつきすぎて、陰キャの私としては珍しく自然とそう言葉が出てしまう。
「ふんっ! Dランク風情が何を言うか! このような役立たず共を寄越してくるなんて。どうやらハーウェ神はとっくの昔に、この世界の人間を見捨ててしまっていたようだな!」
もはや信仰心の欠片もないわね。人間、追い詰めれると本性でるわ。私たち召喚者に全責任を押し付けて、自分だけ民からの非難を逃れたいだけでしょ。
この様子だと、私たちを戦力と見なして歓迎してくれる、という感じにはならなそうね。実際にわたしが役に立ちそうもないのは確かだけど、アッシュの力を知ったらどういう反応を示すのかしら?
「まぁ良い。確かカナエと言ったか? お前は、すぐその騎士と共に城門の守備に就け!」
言いたいことを言って、そう横柄な感じで指示を出す司祭。疲れきっている私たちに向かって、ほんと失礼な奴だわ!
「守備に就けって、まだ魔物の襲撃に遭っているわけじゃないじゃないの?」
「難民どもをこれ以上、町の中に入れるわけにはいかないからな! お前の役目は、城門の前で列を作っている連中を何処か別の場所に追い払うことだ!」
はぁ? こいつ何を言っているの? 物資が不足してしまうという事は確かに分かるけど、だからといって頼ってきた同じ国の国民をあっさり見捨てられるものなの? しかも、そんな嫌な役回りを私に押し付ける気?
「この世界の人間どもは、やっぱり救いようがないな……」
わたしが司祭の放った言葉に呆然としていると、アッシュはそう呟くなり氷のような冷たい表情で奴の前に迫っていく。
まさかいきなり、手を出したりしないわよね?
そう私が心配した瞬間。アッシュは、司祭の胸ぐらを掴みそのまま吊し上げた。




