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5.わたしが付けてあげる



 はっ、鼻水とよだれと涙が止まんない。きっと今のわたし、かなり悲惨な顔になっているに違いないわね。

 そんな考えがチラッと頭をよぎりはしたけど、こんなのジェット機の外に縛り付けられて乗せられたまま飛んでるようなものよ。顔がどんな状態になっていようと、そんなのどーでもいいこと。気にしてる余裕なんて普通にないでしょ。

 当然のごとく、また力を吸い取られてるような感覚もするし、もう完全になすがままっていうやつね。


 早く目的地に到着して! わたしがそう心の中で叫んだ、まさにそのときだった。

 顔面を打ち続けていた強烈な風圧は止み、今度はフリーフォールみたいな感覚が全身を襲う。て言うか比喩表現なんかじゃなく、まさしく重力に任せて落下している最中だったみたい。


「いやーーーー!!」


 スカイダイビングなこの状況に、恥じらいもなく叫ぶわたし。

 迫る大地。大丈夫なはずだと分かっていても、最悪の未来が頭をよぎる。

 あと少しで地面に激突する。死を覚悟したその瞬間、急激に落下する速度は遅くなっていく。着地する直前でフワリとした感覚が全身を包み込んだ。


「ひでぇ面だな……」


 わたしを地面に置くと、彼はいきなりそんな酷いことを言う。

 まぁ、放り投げられなかっただけまだマシね。


「いっ、一体誰のせいだと思ってんのよ!」

「なんだ。お前が町のことを心配してたから急いでやったのに、感謝の言葉の一つもないのか?」


 あなたがそれを言う? 散々わたしの世話になっておいて、そっちだって感謝を述べたことなんて一度もないじゃない! ほんと自分勝手な奴よね。


 ムカつく気持ちはあれども、完全に腰が抜けてしまって立ち上がる事すらできない。

 その事に関して、いちいち反論する気力さえ湧いてこないわ。


「それにしても、すげー数の難民だな」


 自分で言ってて流石に理不尽だと感じたのか、彼は急に遠くの方を見ながらそんなことを言い出す。

 彼が見ている方に目を向けると、確かに物凄い数の人々が城門の前に列をなしていた。

 て言うか、あっという間だったわね。迫ってくる地面にしか意識を向けていなかったけど、あの短い時間でいつの間にか目的の町に到着していたみたい。


「まさかアレって、町が魔物の群れに襲われてるとかいうわけじゃないわよね?」

「バカなのか、お前? 魔物の群れが、あんな行儀良く列つくって並んでるわけないだろうが」


 なによ! そんな風に言わなくてもいいじゃない! ほんとムカつくわね!

 でも、ひょっとして彼、なんだか少し最初に比べて柔らかくなってない? 少なくとも真面に会話できてる。これって、えらい進歩よね。

 それにしても、いい加減に名前くらい思い出せないのかしら。

 ある程度の会話が成立するようになってきたわけだし、彼を呼ぶときに名前を呼べないのはとても不便だわ。


「ほんと酷いわね、そんな言い方しなくても良いじゃないの! ところで銀髪の大魔道士さん、名前はまだ思い出せないのかしら?」

「お前もしつこい奴だな。そんなに俺様の名前が気になるのか?」

「だって、この先しばらく一緒に行動するなら、名前くらい知らないと何かと不便じゃない」


 わたしがそう返すと、銀髪の彼は小さくため息をついたあと思わぬことを言い出す。


「なら、適当にお前が呼びたいように考えたらどうだ?」


 えっ? それって私に呼び名を決めろってことなの? ほんとにそんな事しちゃっても良いのかしら。そうなると、大魔道士さんに相応しい名前を考えなきゃだし責任重大ね。

 ヘンテコな名前なんて付けたら今度こそ殺されそう。


 あんな強力な魔法をポンポン扱えるウィザードに相応しい名前。

 う~ん、銀髪だしロシア人っぽい名前? それとも、北欧神話に出てくる神様の名前とかじゃダメかしら?


 瞬間的に、あれこれ考えを巡らせた私は決断する。

 この名前なら、気に入ってくれるかしら?

 不安な気持ちは強かったけど、わたしは恐る恐るその名を口にした。

本日の投稿はここまでとなります。

明日以降は様子を見て一話~二話ほど投稿していく予定です。

皆様の評価が、作者の創作意欲の維持につながります。

少しでも面白い、続きが気になると思いましたら、ブックマーク及び評価のご協力お願い致します。

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