4.いきなりそれはないわ~
わたしが差し出した干し肉を、彼は礼も言わずにさっと取りあげる。
まるで、出して当たり前だといった感じの態度。本当にムカつくけど仕方がないわよね。今は、戦力になる人間の方が優先よ。
それにしても、いつまで裸でいるつもりなのかしら。ちょっと安心したら、急に気になり出して仕方がなくなったわ。
「ちょっと待って! あの馬車に、いろいろと物質が積んであるはずよ」
このまま裸で歩いていかれたら堪らないし、わたしはそう叫んで彼を呼び止める。
しばらく行った所に放置されていた、荷物だけを運んでいた馬車はどうやら無事だったみたい。確か水とか食料も王宮を出るとき積み込んでたはず。彼に合いそうな服も、探せばきっと見つかりるんじゃないかしら。
馬は逃げてしまっていて、乗っていけないのは残念だけど。持っていけるだけの物は持っていかないとね。
わたしが馬車の中を物色し始めると、彼は適当な岩に腰を下ろす。
自分にも関係する事なんだから、少しは手伝う素振りくらい見せなさいよね。とは思いつつも、わたしは手早く必要な物を適当な袋に詰めこんでいった。
「どう? これなんか、あなたに合いそうじゃない?」
わたしは、荷物を詰めこんだ大きな袋を地面に置くと、適当に見繕ったインナーとパンツ、それに加えて誰の替えだか分からない新品のブーツと騎士専用の外套を彼に差し出す。
予想はしていたけど、彼はそれを受け取るなり不満そうな顔で身に付けはじめた。
「じゃあ、この荷物はあなたが持っていってね」
「はぁ? なんでこの俺様が、荷物なんか持たなきゃならないんだよ」
「なによ! か弱い女の子にこんな重い荷物を背負って歩かせるつもり?」
どうせまた、ムカつく言葉しか返してこないだろう。そう思って期待はしていなかったけれど。意外にも彼は「ちっ」と舌打ちをすると、地面に置いた荷物を担ぎ上げ黙って歩き出した。
思わぬ彼の行動に、わたしは一瞬だけ呆気に取られる。
その事に関して、余計なことを言うとまた怒らせるだけ。そう考え、わたしも黙って彼の後を追い歩き始めた。
「ねぇ、これから何処に向かうつもりなの?」
「さあな」
「さあなって、何か当てや目的があったりするんじゃないの? 遠くの気配を感知する能力があるみたいだし、まだ無事な町を見つけ出したとかさ」
どうやら当たりだったみたいね。彼は、一瞬立ち止まると「金はもっているのか?」と、いきなり話題を変え質問してくる。
「お金なら、王国から支給されていた残りがいくらかは有るわよ」
「なら、取りあえず五十キロほど先にある町に行ってみるか」
五十キロ先と聞いて、わたしは愕然とする。
いまだに無事な町まで、そんなに距離が有るなんて。疲弊しきった今の私にとって、徒歩でいくにはかなり厳しい道のりだわ。
それに本来の目的地は、王都から二十キロほど離れた場所に有る聖教会の本部。でも、彼の気配感知にかからなかったってことは、その場所ももはや無事ではないということになるわね。
時間が経てば経つほど、状況はどんどん悪くなっていく一方。チンタラ歩いていくなんてしていたら、その町だって着く頃には無くなってるかもしれない。
「大丈夫だよね? 着く頃には、その町なくなってたりしない?」
「飛ぶぞ!」
「へっ?」
思わず間抜けな声をあげてしまったけど、そんな私の腰を銀髪の彼はいきなり抱きかかえる。
~マクォネザークエイオロース レカクゥーアロズー ラノタスアバット ニューラウルターウィキアット オイェックザソウアサバット~
~風の神エイオロスよ、大空を翔る翼となり我に大気を操る力を授けよ~
「飛翔!」
彼がそう叫ぶなり、周囲の空気は大きく震えだす。
僅かに浮き上がった感覚がしたあと、次に気づいた時には地面が遥か遠くになっていた。
耳が痛い。急な気圧の変化のせいね。
いろんな意味で、心臓がドキドキして落ち着かない。
何か声をかけようとしたけれど、そんな私の状態なんて当然気にかけてなんかくれず。彼は、舞い上がった途端ものすごい勢いで大空を翔はじめた。




