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3.意外と悪い奴でもない?



 荒野を覆っていた土煙が消えると、晴れ上がっていた空には再び暗雲が立ち込めていた。

 ガーゴイルの群れと思われた、無数の黒い影は完全に消滅してしまっている。

 青いレーザー光線の雨が、それを殲滅したのは明らかね。


 あんな魔物の大群を、一瞬で屠るような魔法まで使えてしまうなんて。しかも、まるで息をするかのように自然な感じでよ。

 もし彼が魔王とかの邪悪な存在だとしたら、確かに世界を滅ぼしかねないヤバい奴と言えるわね。

 でも、怖いなんてこと言ってられないわ。だってこの状況、どう考えても私一人で生き残れそうにないもの。


 圧倒的な殲滅魔法を目にして呆気に取られつつも、わたしは何とかして言葉を絞り出す。


「今のは魔法なの? 王国で習ったものと比べて、何かと違う感じだけど」


 頑張って話しかけてみたものの、銀髪の彼はやれやれといった感じで肩をすくめ何も言わずに歩き出す。

 取りあえず、わたしの事を攻撃対象と見なしていない様子なのは良かったけど。こんな所に一人で放置なんてされたら、アウトなことに変わりはないわ。


「ちょ、ちょっと待ってよ! わたしのこと置いてくつもり?」


 それでも構わずこの場を去ろうとする銀髪の彼。


「ねぇ、あなた私がいなくても大丈夫なの?」


 わたしは、苦し紛れにそう問いかけてみる。

 確証はないけど、何となく自信はあった。二度目の魔法のときもそう。たぶん彼は、自分の力だけじゃ魔法を行使できないんじゃないかしら?


「どういう意味だ?」


 ようやく食いついた彼は振り返ると、そう言って冷たい視線を私に向ける。


「最初にあなた、わたしに対して力を貸せって言ってたわよね? ずっとなのかは知らないけど。少なくとも今はまだ、他人の力を借りないと魔法を使うことができないんじゃないの?」


 どうやら図星だったようね。わたしの質問に対して彼は表情を歪ませていた。


「ちっ、そいつが分かっているなら、黙って俺についてくればいいだろ」


 なによ、その上から目線の言い方は! 結局わたしが居なければ、そっちだって困るんじゃないの! だったらもう少し優しく接して欲しいものだわ!

 そうは思いつつも、どうしてもそれを言葉にすることができない。

 わたしの力を使われて、わたし自身がこの場で始末されるなんて事にでもなったら洒落にならないものね。


 どっちにしろ、この先わたしたち二人が協力し合わなければ生き残れないのは確か。取りあえず相手が、わたしを殺す気がないのなら遠慮なんてしてられないわ。


 ムカつく気持ちを抱えつつも、わたしは黙って彼の後をついていく。

 向こうも向こうで、そのあと何も語ろうとはしなかった。


「ねぇ、ところであなた名前は思い出せたの?」

「うるせー女だな。そんなもんどーでもいーだろ。そのうち思い出すだろうから、いちいちそんなこと聞いてくんじゃねー」


 もともと陰キャの私にとって、その言い方はくるわー。なるべく人から罵倒されないように、大人しくして生きてきたつもりだけど。状況が状況とはいえ、この先ずっとこんな感じで扱われるのかと思うと憂鬱でしかないわ。


 そうよ。大人しくなんてしていたら、こういうタイプの人間はどんどん増長するだけ。

 半分自棄になっていた私は、ここで引いたらダメ、って思って言いたいことをブチまけてみることにした。


「そんな言い方しなくても良いじゃないの! わたしの代わりなんて、いくらでも居るって言いたいの?」


 わたしの問いに対して、銀髪の彼は一瞬だけ考え込む様子をみせる。

 すぐ近くに代わりが居ないことなんて分かっていたわ。たぶん、普通の人間なんかじゃ代わりは務まらない。召喚者としての力があればこそ、あんな凶悪な魔法を放つ源になり得たのは間違いないでしょ。ましてや普通の人間ですら、殆んどゾンビにされてしまって生き残りが居るのかさえ分からない状況なのよ。


「確かに、広範囲に気配感知を飛ばしてみたが、魔物だらけで普通の人間の気配すらないようだな……」


 気配を感知する能力まで持っているのね。

 一か八かだったけど、状況を理解してもらえたようで何よりだわ。


「まぁいいさ。利用価値が有るうちは、お前のこと守ってやる」


 えっ? いきなりどうしたっていうの? そこまでの反応は期待してなかったけど、これってひょっとして上手くいったってやつ?


「なにキョトンとしてやがるんだ? それにしても腹が減ったな……なぁお前、何か食いもん持ってないのか?」


 お腹が空いたって、まるで普通の人間みたいなことを言うのね。

 意外と人間味のある言葉に気が抜けてしまう私だったけど、期待に応えようと慌てて腰掛け鞄の中をさぐる。

 わたしは取り出した干し肉を、彼の目をじっと見つめながら黙って差し出した。

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