31.信じてたのに
市長の館は目と鼻の先。でも、数多くの難民が大通りを占有していて、移動するのはかなり困難な状態になっていた。
それが理由か、鬼島くんは遠回りなのに狭い路地に入っていく。
「ちょっと、市長の館はあっちよ!」
「連中、俺たちの事を見たら、すぐに集ってくるからな」
言ってる事はごもっともだけど、なんだかちょっと嫌な感じがする。三浦くんの方に目を向けると、何故か彼は鬼島くんの答えに薄ら笑いを浮かべていた。
市長の館とは完全に反対方向の、更に狭い路地へと入っていく鬼島くん。
「ねぇ、そっち行ったら反対方向じゃないの?」
「裏から行くときは、こう行くしかないんだよ」
かなり怪しげな雰囲気になってきたけど、まさかひと気のない場所に誘い込むつもりじゃないわよね?
もしそうだとしたら、一体なにが目的だって言うの? まぁ流石に、いやらしい事されるとかはないと思うけど。
そうよ。いくらなんでも、クラスメイトに手を出すなんて事あるはずがない。殆んど話したこともない連中と一緒だから、きっと緊張のせいで悪い風に考えすぎちゃってるだけよね。
彼を信じて黙って後をついていったけど。そんなわたしの気持ちは、どうやら裏切られてしまいそうな雰囲気。
よく有りがちな光景を目の当たりにし、一瞬で血の気が引いていく。次に角を曲がったその先は、完全な袋小路となっていた。
「道、間違っちゃったみたいね」
一縷の望みにかけて、そう言ってみるわたし。
「いや、間違っちゃいないぜ」
鬼島くんの返してきた答えは、わたしが期待していた言葉とは真逆のものだった。
ダメもとで、後ろにいた三浦くんの方に目を向けてみる。
だけど彼の表情を見る限り、やっぱりヤバい状況なのはほぼ確定な感じ。思ったとおり彼は下卑た笑みを浮かべながら、私の事をいやらしい目で見ていた。
前を歩いていた鬼島くんは、すかさず私の後ろに回り込む。逃がさないぞ、という彼の意図は明白だった。
じりじりと迫ってくる二人。
追い詰められてしまうのは分かっていたけど、下がっていく以外どうしようもない。
わたしは最悪の事態を想定し、後退しながら腰の両側に下げていた小太刀の柄に手を掛ける。
「俺たち二人を相手に、Dランクのお前が勝てると思ってるのか?」
そんな言葉が返ってくるってことは、もう完全にそういうことで間違いないわね。
「私の事どうするつもりなの?」
わたしの問いに対して、薄気味悪い笑みを浮かべる鬼島くん。
「俺の中の天使が、お前のこと殺せだとさ」
信じられない言葉に、私の心臓は激しく鼓動する。
「だがその前に、少しだけ楽しませてもらうぜ」
「へへへっ、あんなもん見せつけられたりしたら、やりたくなっちまうのも仕方がねー事だよな」
いやらしい顔で迫りながら、そんな事を言う二人。
いよいよ覚悟した私は後退するのをやめ、両側の小太刀を抜きその場で構えた。
「たっぷりと可愛がってやんよ」
ただの変態野郎と化した鬼島の奴は、そう言うと背中の大剣を抜く。
真面に打ち合ったところで、武器的にも腕力的にも敵わないのは確か。ましてや相手は二人。
攻撃するふりして、上手いことすり抜ける? いえ、相手が一人ならまだしも、二人同時にフェイントかけるなんて無理そうだわ。
何か目眩ましにでもなりそうな魔法……必死でそんな事を考えていたけど。下卑た笑みを浮かべた変態男は、考える余裕すら与えてはくれず。ついにその魔の手を私に対し伸ばしてきた。
大きく円を描くように、剣を振り回す鬼島。
武器を払い落とされてはかなわない。咄嗟にそう考えた私は、真面に受けずバックステップでその攻撃をなんとか回避する。
だけど、恐怖のせいか上手く足元に力が入らない。よたよたっと数歩下がったあと腰が抜けてしいまい、そのまま地面に尻餅をついてしまった。
「こんな事して、アッシュが絶対に許さないんだから!」
「ハハハッ! 陰キャのくせしてお前、どんだけ自信過剰なんだよ。どうせすぐ北条たちに靡くぜ、あの魔人」
その自信があるからこそ、平気で私のこと犯そうとするの?
「いや、俺はけっこう好みだったりするけどな。北条や安達よりも、エロい体してそうだしなコイツ」
エロい体してそうって何よ! 無理やり目の前に出されたりしたら、絶対に噛みちぎってやるんだから!
「しっかり押さえとけよ」
鬼島は、そう言いながら腰のベルトを外しはじめる。ずいぶんと気が早いことよね。
言われた三浦は、私の体に覆い被さろうと一気に迫ってくる。
最後の悪あがきで、小太刀を前に突き立ててはみたけど。その僅かな抵抗は、鋼鉄のようになった彼の手で難なく振り払われてしまった。




