30.なんとかしてこの場を脱したい
さて、そうは言ってもどうしたものかしらね。ここでハッキリ断っても、このまま何事もなく解放してもらえるとは思えない。
かといって今の段階で素直に従うふりをしても、きっと大神官は騙されてはくれないでしょうね。
何か納得できるような言葉をかけられて、それでようやく応じる。そういう流れに持っていかないと、たぶん相手も信用してはくれないはず。
「封印するって言っても、既にその方法についての当てはあるんですか? それに、万が一失敗したとき、あの恐い魔人を怒らせる事になるだけなんじゃないかって……真っ先に危害が及びそうなのは私だし、その辺のことがすごく心配で仕方がないんです」
私がそう言うと、先程まで向けていた嫌悪の表情が一変。明王寺くんは、穏やかな顔で大神官の代わりに話し始める。
「その心配なら要らないさ。あの魔人を封印する手段については、既に確実な方法を確保できているからな。猪俣は、余計なことは考えず俺たちに全てを任せれば良いんだ」
まぁ、当然よね。なんの当てもなく、こんなハイリスクな計画を立てるわけがない。少なくとも確証の持てない段階で、私にそれを話すなんて事は絶対しないわよね。
「ほんとに信じて良いの? 封印するって、具体的にはどうするつもり?」
わたしの質問に対し、大神官が口を挟む。
「カナエ殿が魔人と共にこの町を出た後、廃墟となった本部の捜索をおこなわせておったのだが。その際に回収した無事だった書物の中から、超常的な存在すら封印する方法を記した物が発見されたのだ」
「それを実行するには、俺たちの力が必要になるけどな。やれる自信は十分にあるから安心してくれ」
具体的な方法を訊いてみても、やっぱり抽象的な答えしか返ってこないわよね。万が一の事を考えて、アッシュのために詳しく内容を聞いておきたいところだけど。あまりしつこく訊ねると、却って怪しまれてしまいそう。
「本当に成功するって言いきれるんですね? でも、わたしがやっぱり離れたいって聞いて、彼は納得してくれるかしら?」
わたしが口にした不安の言葉に、北条さんがすかさず反応する。
「それについては、私と悠愛が何とかするわ。どっちを選ぶかは分からないけど、あの魔人ってただ偏屈な性格をしているだけだと思うのよね」
その考えについては確かにそのとおりかもね。せっかく良い気分になってるのに、また不安にさせるようなこと言わないでよ。
ともあれ、この流れなら一旦ここを出ても良さそうな雰囲気。
「わかりました……では、早速これから市長の館に行って、彼を説得してこようと思います。わたしの口から直接聞かないと、彼も納得しないと思うので」
「だったら俺たちも一緒に付いてってやるよ」
とにかく早くアッシュに知らせに行きたい。そう思って言ったことに対し、すぐに返してきたのは鬼島隆二だった。
うちのクラスでは不良ぽい感じで、やんちゃな事ばかりしていた子。
隣にいる三浦嘉由紀をチラッと見た様子から、彼と一緒に付いてくるってことみたい。
余計なお世話だけど、頑なに拒否なんてしたら絶対に怪しまれるわよね。
「そんなにぞろぞろと大人数でいったら、たぶん彼は私が無理やりそう言わされてるって感じちゃうんじゃないかな?」
「ああ、分かってるさ。俺たちはここで待ってるから、悪いが隆二、彼女の付き添い頼んだぞ」
わたしの言葉に対し、すぐにそう反応する明王寺くん。
そこまで言われてしまったら、もう完全に拒否できない感じよね。でも、取りあえず五人全員がついてくるって話にならなかっただけ、まだ良かったと言えるわ。
納得はしてないものの、怪しまれまいと思った私は黙って頷く。
「では頼みましたぞ、リュウジ殿にヨシユキ殿。カナエ殿、報酬の件は希望どおり用意すると魔人に伝えていただきたい」
大神官にそう言葉をかけられ、頼まれた二人は「ああ、任とけ『了解だ』」と言ってすぐに動きだす。
正直、明王寺くん以上に苦手な二人だけど、こうなってしまっては仕方がないわね。
監視役なのは分かってる。でも相手が二人だけなら、アッシュと一緒に逃げ出すのは簡単なはず。
そう考えたわたしは作り笑いを浮かべると、彼らと共にこの居心地の悪い部屋からそそくさと退出した。




