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29.密談



 明王寺くんの反応からして、私には詳しい話をしたくなかったようね。それだけ話の内容が、あまり良くないものだってこと。

 アッシュが居なくなった途端これだもの。彼がいたら、不都合な内容の話をしようとしているのは間違いないわ。


「これを聞いたからには、是が非でもこちら側に付いてもらわなければ困る」


 そう前置きして、話を始めようとする大神官。


「じゃあ、聞かない、という選択肢も有るんですかね?」


 咄嗟に私はそう答える。

 これだけ聞いたら、もう何となく察しがつくわ。やっぱりアッシュに関して、何か危害を及ぼすような話なのは確実。


「いや、ここまで言ってしまえば、もうおおよその見当はついてしまったのではないのか?」

「ええ……アッシュに対して、何か良からぬ事を企んでる感じですよね」

「うむ。もう自身で気づいてるか、本人から既に聞いているのかもしれんが。あの魔人は、恐らく古い神々の類いだ。実際に人の姿をして存在していること自体、信じられん話だがな」


 古い神々の類い……確かに、そんなようなことを匂わせる話もしていたわね。


「だったら、どうだって言うんですか?」


 アッシュの影響かしら。彼ほど下品な言い方ではないけれど。わたしは、つい強い口調でそう反応してしまった。


「奴は本来、聖教会にとって敵対する存在という事になる。今は力を借りる必要があるが。最終的には再び封印するなり、何らかの処置をおこなわなければならない」


 はぁ? なに言ってるのかしらこの人。利用するだけ利用して、用が済んだら処分するってことよね? わりと道徳的な人だと思ってたから、彼からこんな言葉を聞くなんてちょっと残念だわ。


「言いたい事は分かる。が、私もハーウェに仕える身。他の超常的存在を神として認めるわけにはいかんのだ。かといってあの魔人が、ハーウェが遣わした聖人、という位置付けを受け入れるはずもあるまい」


 なるほどね。そういう話で上手く纏まりさえすればいいけど。本人が、それを受け入れるはずがないと。

 まぁ、当然よね。あんな性格だし、アッシュが大人な対応をできるとはとても思えない。

 でも、ハーウェの助力だけでは闇の帝王を倒せない。そう言っているようなもんなのに。この人たち恥ずかしいとは思わないのかしら。

 それとも、あのムカつく司祭が言っていたみたいに、この世界の人間はもう神から見離されてるってこと? それが分かっていて、自分たちの存続と神に対する信仰心を両立したい。そう言うことなのかしら。


「冗談じゃないです」


 どう返して良いか分からなかった私は、そう言うだけで精一杯だった。


「猪俣。少しは大人になれ!」


 すかさずそう言ってくる明王寺くん。

 教会の人たちはまだ分かるわ。でも私たちは、最初からハーウェの信者だったわけでも何でもない。なのにどうして彼は、そこまでこの人たちに迎合できるのか私には全く理解できない。


「明王寺くん達は、元の世界に帰りたいとは思わないの?」


 真相を知っている私は、ついそんな言葉を漏らしてしまう。


「はぁ? いきなり何を言い出すんだ猪俣。今は、そんな話をしてないだろ?」

「そんなこと分かってるわ。でもその辺のところ、どう考えてるのかだけでも聞かせてはくれないかな?」


 わたしの問いに対して、明王寺くんをはじめとする五人は明らかに嫌悪の表情を浮かべる。


「フザけるな猪俣! 少しはこの世界の人々の気持ちを考えろ! 俺たちは、ハーウェに選ばれた勇者なんだ! 今は自分たちの事よりも、この世界の人々を救う事だけを考えるべきなんじゃないのか?」


 異常よ……理不尽な目に遭っているのは私たちのはずなのに。元の世界に帰りたいって気持ちを持っていて、一体何が悪いっていうの? 大神官たちを前に、体裁を保ちたいのは分かる。でも、本来そこまで私たちが、尽くす義理なんて全くないと言ってもいいくらいだわ。


 勇者という聞こえのいい立場に酔ってる。でなければ、天使の声に洗脳でもされているの? そういえばアッシュに会ってからというもの、天使さんの声すっかり聞こえなくなったわね。


 クラスで最も影響力のある子に浴びせられた罵声。以前の私だったら、完全に萎縮しているところだったでしょうね。でも今の私は、そんなことくらいで怯んだりしない。

 おかしいと思うことは、ちゃんとおかしいと思える。

 少なくとも周りの威圧に流されて、すぐに考えを翻すような事にだけはならない自信があった。

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