28.不穏な空気
静まり返る空気。
直接バカにされたわけじゃない残りの男子二人は、マジかよ、といった感じで薄ら笑いを浮かべている。
ムカついてはいても、相手が魔人とあっては誰も彼に対して不満を口にすることさえできない。だけど、精鋭召喚者パーティーとしてのプライドは完全にズタズタ。少なくとも明王寺くんと北条さんの二人に関しては、そんなところじゃないかしらね。
ちょっとでも追い討ちをかけようものなら、すぐにても爆発してしまいそうな雰囲気。
まさしく嵐の前の静けさといった感じだった。
正直わたしは、彼に捨てられなかった事に対する安心感だけで胸がいっぱいだった。だから、この連中に対して勝ち誇るような気持ちとか、いい気味だと思う感情すら湧いてこない。
ただ有るのは、争いに発展するのが恐いという気持ち。これ以上、この話を続けて欲しくないという思いだけ。
「猪俣さんには失礼だけど、いろんな意味で『望みにかなってない』って部分がどうしても納得いかないですけどね」
プライドを傷つけられた北条さんとしては、当然の反応よね。ようやく口を開いたかと思うと、ずっと恐い顔でこちらを睨んでいた彼女はそんなことを言い出す。
女としての魅力や、召喚者としての能力で劣っているのは認めるわ。でも、そこまで分かりやすくディスられると、やっぱりちょっとムカつく。
ほんと自信過剰っていうか性格悪い女よね。
前からそう。男子たちや、自分に利の有る相手に対してはいい顔するけど、見下してる相手に対してだけは平然と嫌みなこと言う子なのよ。
「しつけーな! これ以上てめぇらと話したって無駄だ! 俺は先に市長んち行って休んでっから、カナエ、悪いがお前ここに残って報酬の件しっかり話つけといてくれ」
アッシュは北条さんの問いには答えず、そう言ってゆっくりと私の身体を解放する。
「ちょ、ちょとアッシュ……」
わたしの呼び掛けに応じることもなく、彼はそのまま部屋を出ていってしまった。
ほんと身勝手よね。彼なりに気を遣ってくれたのかもしれないけど、こればかりは余計なお世話としか言いようがないわ。こいつらの私に対する態度を見れば、ここに残しちゃいけないことくらい普通にわかるでしょ。
アッシュが部屋から出ていくと、思ったとおり北条さんの表情は和らぐ。むしろ怒ってる顔よりも恐い。
「猪俣さん。どんな手を使って、あの魔人を手懐けたのかしら? 何か、特別な契約を結んだとか?」
手懐けるなんて言い方、ちょっと人聞きが悪いわね。
たぶんどう答えたところで、北条さんの納得を得られるとはとても思えない。
何でもいいから適当に嘘でもついて誤魔化す? 処女を捧げたとか言ってみたら、彼女は一体どんな反応を示すのかしら。
「私にもよく分からないわ。たぶん、力の相性が良いとか、そんな感じの理由だと思うけど」
結局わたしは普通に自分の考えを述べる。下手にそんな事を言ったりしたら、わたしも彼に抱かれてくる、とか言い出しかねないものね。
当然そんな答えで、北条さんが納得するはずもなく。彼女は再び、イラっとした表情をわたしに対し向けた。
「猪俣、悪いがあの魔人から手を引いてくれないか?」
続けて明王寺くんが、わたしに向かってそう言ってくる。
どうしてそこまで私とアッシュを引き離そうとするのかしら。闇の帝王を倒すことだけが目的なら、誰がやったっていい話じゃない……あっ、お察し。そう言うことか。他の国々で召喚された勇者たちも段々と成長してきてる、なんて話も前に聞いたことあるし。誰よりも早く、自分たちだけで討伐を成功させたい。そして、私をその中に入れる気なんて全くない。きっとそう思ってるのね。
でもそんなこと、この国の人たちからしたらどーでもいい話のはず。
「アマネ殿。その理由については、私の方から説明させてはもらえまいか」
車椅子に乗りずっと黙って話を聞いていた大神官が、そう言って急に話に入ってくる。
最初に感じた一方的な空気を思い出したけど、ついにその答えが知れそうな雰囲気ね。
あまり良い話でないことは想像できる。でも何を言われたって、彼に対する私の気持ちが変わる事はないわ。
覚悟を決めた私は黙って頷く。そんな私の反応を見て、明王寺くんは何故かやれやれといった感じで肩をすくめた。




