32.わたしが陰キャになった理由
いくら天使の力による補正があるからって、素手で剣を振り払うってなんなのよ! 私の武器だって一応、聖級だって話だったはずじゃない。それなのにコイツ、どんだけ硬い体してるって言うの?
わたしがこっちでチンタラやってる間に、隣国のダンジョンで相当レベルを上げていたって事なんでしょうね。
ここまでくるともう、抵抗するだけ無駄と言いってもいい程の実力差だわ。お願いだからアッシュ……早く私のピンチに気づいて。
「私みたいな陰キャ女子を犯そうとするなんて。よっぽどあの二人に相手してもらえなくて、とうとう誰でも良くなっちゃったって感じなのかしら?」
力で敵わないなら挑発してみる。無意味かもしれないけど、このまま黙ってされるのもやっぱ癪。それに、少しでも時間を稼げれば、何か劇的な展開が訪れるかもしれない。
「いやだから、俺的にはけっこう好みなんだって。いくらなんでもお前、自己肯定感なさすぎだろ。俺はふつーにお前のこと、けっこう可愛いなってずっと思ってたんだけどさ」
鬼島の奴も笑ってるだけで特に否定しない辺り、強ち嘘とも言いきれないのかしら? でも、これから私のこと犯そうとしてる奴にそんなこと言われたって、ちっとも嬉しくなんかない。
て言うかもう鬼島の奴、下半身まる出しになってるし!
「そんなこと言って、わたしがその気になるとでも思ってるの? どーせただ、やりたいだけなんでしょ!」
半べそかきながら、やっとな感じでそう言うわたし。声が震えてしまい、凄んでる感じがまるで出せない。もっとど汚い言葉で罵ってやりたかったけど。言い慣れてない言葉はやっぱり、咄嗟には出てこないものね。
「まぁ、やりてーだけだってのは間違ってねーけどな。でも、向こうの世界に居たときから、お前のこと気になってたのは確かだぜ」
「よっしー、いつも陰で『あの女とやりてーやりてー』って、しつけーくらい言ってたもんな。せっかくだから今回は俺も、たっぷりと楽しませてもらう事にするわ」
冥土の土産っていうやつなの? これから犯して殺す相手に対し、最後にリップサービスでもしてるつもりなのかしら。
でも、アッシュだって『俺は面食いな方だ』なんてこと言ってたくらいだし。ひょっとしたら私って、ほんとに自己肯定感なさすぎなだけだったりするのかも。
そんなこと考えてたら、あの時の言葉がふと頭に思い浮かぶ。
わたしが完全な陰キャになってしまう、きっかけになった出来事。
『こんな不細工で本ばっか読んでるキモい女、好きなわけねーだろ!』
小四のとき、ずっと好きだった子が私に対して放った言葉。そう、本人がいるすぐ側でよ。
隣の席でわりと話も合うし、わたし的にはけっこういい感じだと思ってた。
仲良く話してたところ、数人の男子にいきなり揶揄われたのよね。
いま思えば、単なる照れ隠しだったのかもしれない。でも、その事が原因で私は男の子と話すのが怖くなり、それっきり彼とも話すことはなくなってしまった。
「私のこと好みだって言うくせに、それでも犯したうえに殺すつもりなの?」
それで三浦の奴が思い止まってくれるなんて、普通に思ってはいなかった。ただ彼に、少しでも良心が残っているのか確認したかっただけ。
「なんだよ急に命乞いはじめたのか? だったら『三浦くんの物になるし、何でも言うこと聞くから殺さないで』って、ちゃんと懇願しなきゃダメだろ?」
「ちゃんと言ったところで、天使の命令だからけっきょく殺すんだけどな。一度でいいからやってみたかったんだよ……やりながら首しめて、そのまま殺しちゃうとかさ」
「こっちの世界だったら、俺たち召喚者のやる事はどんな行いでも罪になったりしないからな。てかリュウジ。俺がやる前に殺したりすんなよ」
もう完全にイカれてる。いくら天使がそう言ってるからって、平気でそんな事できるものなの? しかも、殺す行為すら楽しみにしてるなんて……例え天使の命令が絶対だとしても、元々の人格を疑ってしまうレベルだわ。
て言うか、わたしだって召喚者の一人なのよ? こんな無茶苦茶な話、普通に疑問を感じたりしないのかしら。
時間稼ぎももう限界。恐すぎて、悔しすぎて。おしっこも漏らしちゃった。
「あはは、コイツ漏らしてやがんぜ」
「もうちょい我慢できなかったのかよ? それは最後の楽しみにとっといて欲しかったなー」
三浦はそう言うなり、私の腕を乱暴に掴んで引っ張り回す。
圧倒的な力の差に、全く抵抗なんてする事ができない。まるでヒグマにでも襲われてるかのよう。
そのまま地面に叩きつけられてしまい、一瞬だけ飛ぶ意識。気づけば猛獣と化した三浦が、私の上に股がっている状態となっていた。




