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26.やりきれない気持ち



 彼女の名前は、北条沙織(ホウジョウサオリ)。黒髪ストレートロングの彼女は、ものすごく愛嬌があって、学校中から可愛いと噂されているような子。

 綺麗な容姿をしているのに社交的でもあるなんて、ほんと無敵としか言いようがないわよね。

 そんな彼女が口にした言葉は、予想どおり私にとって好ましいとは言えないものだった。


「魔人さんは、他人の力を吸収して魔力に換えてるみたいですね? 今は猪俣さんの力を借りて、魔法を使っているって聞きましたけど」


 いきなりそこに触れてくるなんて、益々嫌な予感しかしない。

 本当は私に対して興味があったんじゃなく、魔人であるアッシュの方に興味があったのかもしれないわね。


「だったらなんだってんだ? 俺じゃなく、同郷のカナエに話があるんじゃなかったのか?」


 アッシュは、そう言って私の気持ちを代弁してくれる。でも北条さんは構わず話を先に進めた。


「単刀直入に言うわ。あなたの力を私たちに貸して欲しいの」

「断る!」


 北条さんの言葉に対し、即座にそう答えるアッシュ。まるで最初から、何を言われるのか分かっていたかのようだわ。

 それにしても、()()()、って一体どういうこと? 既に私とアッシュは、お互い依存関係にある。そんな私を仲間として認めているのなら、わざわざ力を貸して欲しいなんて言う必要もないはず。それは即ち、わたしにアッシュから手を引けってことになるわよね。


 即座に断られ戸惑う様子の北条さんだったけど、引くつもりなんてまるでないみたい。すぐに作り笑いを浮かべた彼女は、ここで負けじと話を続ける。


「あなたが本来の力を取り戻すためには、より強いエネルギーが必要になるんじゃないのかしら? ここまで、魔力代わりになってくれていた猪俣さんには申し訳ないけど。私たちの方が、より強いエネルギーをあなたに提供できるはずよ」


 もはや隠すつもりすらないようね。そこまで言ってしまったら、わたしからアッシュを奪おうとしてる事が丸分かりじゃない。

 それにしてもそんな話、いったい何処で聞いたのかしら。何となく感覚的にわかってはいたけど、わたしだって彼から直接聞いてすらない話だわ。


 北条さんの言葉を受け、無表情で黙り込むアッシュ。まさか彼女の話に、心を動かされていたりしないよね?

 そんな彼の様子を見て、北条さんから笑みが溢れる。完全に勝ち誇ったかのような顔。

 心配する気持ちでいっぱいの私とは対照的に、自信の表れといった感じね。


「猪俣。Dランクなのに、ここまでよく頑張ったな! あとの事は俺たちに任せて、お前は安全なこの町で防衛に専念してくれないか?」


 やっぱり最初から、私の居ないところでそんな話し合いをしていたみたいね。明王寺くんは、畳み掛けるかのようにそう言ってくる。

 本人にそれを打診する前に、まずは私に手を引くよう説得してから話をするつもりだった。たぶん、そういったところじゃないかしら。


 明王寺くんの言葉に、自然とアッシュの袖口を掴む手に力が入る。

 じっと見つめる私に対し、彼は僅かに悪戯な笑みを浮かべた。


「お前らの目的は一体何なんだ?」


 すぐにまた断ってくれる事を期待したのに、アッシュはそう質問して話に応じる姿勢をみせる。


「それは当然、あなたの力を借りてこの世界を救うことに決まってますよね?」


 即座にそう答えた明王寺くんの言葉に対し、他の四人は一斉に相づちをうつ。


「俺の力を借りるって。てめえらの力じゃ、闇の帝王を倒せないって認めてるようなもんじゃねーのか?」

「はい。正直なところ今のレベルじゃ難しいとは思ってます。でも、相手の力は日を追うごとに増していくばかり。この世界の平和を取り戻すためには、自分たちの力だけで、なんてこと言ってる場合じゃないので……」

「へんっ、そうかい。まぁ、正直で悪くない答えではあるな」


 明王寺くんの言葉に対し、そう了承と受け取れるような答えを返すアッシュ。その答えを聞いた精鋭パーティーの五人から、安堵の笑みが溢れるのを私は感じ取った。


 そりゃ確かに私なんかより、コイツらの方がアッシュの力を上手に引き出せるのかもしれない。この世界を早く平和に導いてあげるためには、この連中に任せるのが正しい判断だってことくらい分かってる。

 それでも、湧き上がる気持ちを抑える事がどうしてもできない。

 やっぱりアッシュは私みたいな狸娘より、北条さんのような美人の方が良いっていうことなの? だとしたら、勝手に盛り上がっていた自分がほんと馬鹿みたい。


 改めてその事実を突きつけられてしまい、自然と涙が頬を伝う。負けを認めたようなもんだけど、そう考えると余計に涙が止まんなくなる。


 やりきれない気持ちを抱えつつ、わたしはアッシュの袖口を掴んだまますがるような思いで周囲を見渡す。

 だけど周りの騎士たちの様子からは、誰も私の味方についてくれそうな気配すら感じることはできなかった。

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