24.あまり会いたくなかった連中
たぶん、ガーゴイルの群れを殲滅した時と同じ魔法よね。
青白い球体から降り注ぐ光の雨。高速で落ちる槍と化したその光線が、魔物どもの体を容赦なく破壊する様子がここからでも分かる。
体を貫通しても、その威力はまるで失われることがないみたい。地面への激しい衝突は、辺りを一気に土煙で充満させていった。
巨大地震と爆発の魔法を選択しなかった理由は、町への被害を考慮してのことじゃないかしら。
確実に報酬をもらうためだろうけど、ちゃんと考えて状況に応じた選択ができるところは流石よね。
光の雨は、地上に向かって三十秒ほど降り注ぐ。その間、魔物どもの悲鳴と地面を抉る衝突音は、この場所にまで響き続けていた。
ここからでもなんとなく分かるわ。今の攻撃で、魔物の大群は完全に死に絶えた様子。土煙が晴れたあと、城門の前に広がる凄惨な光景に私は息を飲んだ。
きっと、こんな魔法は想像もしていなかったでしょうね。その様子を見ていた騎士さんたちの間でも、大きなどよめきが起こっていた。
少しフラフラした様子で飛びながら、ゆっくりと私の元に戻ってくるアッシュ。その表情は、いかにも気だるいといった感じだった。
「お疲れ様、アッシュ」
目の前に降りたアッシュに労いの言葉をかけると、彼はいきなり私の体をぐいっと抱き寄せた。
「ちょっと、いきなり何すんのよ!」
「うるせーなカナエ。疲れて帰ってきたんだ。少しくらい栄養補給させてくれたっていいだろ?」
わたしを抱くことで疲れが取れると言うなら、いくらでも抱いてもらって構わないけど。騎士さん達の前で、お尻とか触るのだけは本当やめて欲しいわ。て言うか、どんだけ頻繁に栄養補給しなきゃならないっていうのよ!
「わかったから。町に戻った後でゆっくりしよ。報告とか全部終わったら、いくらでも私のこと好きにしていいからさ」
騎士さん達がいる前で、こんなことを言うのも恥ずかしいけど。今はこの状態から脱する事が最優先。
だけど、その言葉を勘違いして捉えてしまったみたい。アッシュは、不敵な笑みを浮かべると私をお姫様抱っこして、騎士たちには何も告げずに飛翔の呪文を唱えた。
彼の魂胆はなんとなく分かる。でも、おやつをチラ見せしただけで素直に言うことを聞くなんて。飼い犬みたいでけっこう可愛いところあるじゃない。
「疲れてるんじゃなかったの? 飛んだりしたら、余計に疲れるでしょ」
「さっさとやること済ませて、さっきの続きをしなきゃだからな」
なんだか嫌な予感しかしないけど、それって気のせいかしら? まさか本当に、えっな事されたりしないわよね?
ちょっとだけ怖いような、期待するような気持ちになりながらも、わたしは眼下に広がる凄惨な光景に再び息を飲んだ。
相手が魔物だとしても、こんな一瞬で全滅させられちゃうなんて。ちょっとだけ、魔物に対して同情する気持ちにならなくもないわね。
それにしても、これだけの死体を処理しなきゃならない町の人たちも大変だわ。
城門を越える際、相変わらず兵士たちは沈黙している様子。今回はより目の前で起きた事だけに、前回よりも更に圧倒されてるといった感じじゃないかしら。
たぶんアッシュは、そのまま素通りして大神官の元に向かうつもりだろうけど。通過しようとしたところで、城壁の上にいる人物から私たちを呼び止める声がかかった。
「おーい、いのまたーっ!」
そう下から叫ばれた名は、まさしく私の名字。
私を上の名で呼ぶってことは、この世界の人間じゃないわね。もし名字で呼ぶ人間がいるとしたら、それはあっちの世界で同じクラスだった連中くらい。
ということは、レベルアップのため隣国の地下迷宮に籠ってたあいつらが、私たちの居ない間にこの国に戻ってきてたってこと?
アッシュのことだから、声がかけられても無視して先に行くと思ったけど。少し気になったのか、彼は城壁の真上で一旦飛行するのを止めた。
よく目を凝らしてみると、確かに周りの兵士たちと比べてかなり派手な装いの者たち。そう、あの格好はクラスメイト達の中でも、特に精鋭と呼ばれていた五人組。
陰キャだった私は、元からあいつらと仲が良かったわけじゃない。こっちに来てからは、能力があまりない事も相まって余計に空気みたいに扱われていた。
「同郷の連中か?」
「う、うん……そうみたいね」
「降りるか?」
彼の性格からしては予想外の反応ね。アッシュは、一応わたしに対してそう意思を訊ねてくる。
「ううん、どうせ後で会う事になるだろうし、今はいいわ」
わたしの答えを聞いたアッシュは、何も言わずに再び飛行を開始する。
ここであいつらを避けても、言葉のとおりどのみち後で会う事になるのは確実。でもまだ、連中とどんな話をしていいのかさえ分からない。
とにかく今はただ、一旦この場から逃げたい気持ちでいっぱいだった。




