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23.なすがまま



 突然、車内に響きはじめる外からの騒音。断続的に聞こえてくる爆発音は、馬の走る音さえ掻き消すほど激しさを増していく。

 騎士隊長さんの命令する声がして、馬車はゆっくりと停車した。

 隣に座って私の体を弄んでいたアッシュは、めんどくさそうな感じで重い腰を上げると黙ってキャビンから出ていく。わたしも彼の後を追って、荒れ果てた大地に降り立った。


 私たち討伐隊の一行は、大神官の居る町の近くまで戻ってきていた。

 十分な食料は積んでいたんだけど、アッシュが町に対する魔物の襲撃を察知していたのがその理由。

 たぶんキンダアーモンの奴は彼が町から離れたのを良いことに、二面作戦を実行しようとしていたってところじゃないかしらね。

 あの場所まで行く途中、別動隊とはすれ違わなかったけど。それに対して彼に質問したら、迂回して侵攻させているって答えだった。


 襲撃を察知したアッシュは、町の人間がどうなろうと知ったこっちゃないがな、と相変わらずな感じで言っていたけど。報酬をもらい損ねる事になるのがよほど嫌だったみたい。ほんと、がめつくて俗な魔人様よね。

 最初は、いきなり戻るなんて言い出すから、理由を聞くまでものすごく困惑したわ。


 馬車から降りてすぐ私の目に飛び込んできたのは、城門の前で激しい戦闘が行われている光景だった。

 一度目の襲撃みたいな大群ではないけど、大型のものから小型のものまで数千はいるって感じ。幸いなことに、ガーゴイルみたいな飛行系の魔物は含まれてないようね。

 アッシュが戦力を相当削ってくれたおかげで、やっぱり敵としてはかなり大きなダメージだったんじゃないかしら。

 そんな感じで城壁の上からは、魔物の軍団に対し魔法による火炎弾や矢の雨が激しく降り注いでいた。


「町の連中、なかなかやるじゃねーか」


 戦いの様子を見て、そう言ちるアッシュ。確かに彼の言うとおり、町の人たちはかなり組織的に抵抗しているように見えた。


「そうね。シェンカさんって、けっこう有能な指揮官だったのかも」


 わたしがそう返すと、アッシュは急にムッとした顔になりそっぽを向いてしまう。

 他の男の人をちょっと褒めただけで、すぐそんな風になってしまうなんて。本当にこの人ってば嫉妬深い性格なんだから。

 まぁ、会話をしただけで怒るくらいだし、他の男を褒めるなんてしたら当然そうなるわよね。でも、それだけ私に関心を示してくれてると思うと、ちょっとだけ嬉しい。


 また文句を言われるんじゃないかと思ったけど、今回は全くそんなことはなく。わたしは、片方の腕でいきなり彼に抱き寄せられてしまった。


「すぐに片付けてくるから、カナエはここで大人しく待ってろ」


 わたしの片乳を揉みながら、耳元でそう囁くアッシュ。俺の女アピールされるのは嬉しいけど、その度にいちいち胸を揉むのだけはやめてくれないかしらね。


 ええ、分かっていますとも。わたしは、彼にとってちょうど良い抱き枕。最初に怒らなかった私が悪いのよね。って、いつまでこうしてるつもりなのよ。

 周りを囲む騎士さん達も、なんだか気まずそうにこちらをチラチラと見ている。

 せめてこういう事は、誰も見ていない所だけにして欲しいものだわ。


「わかったから、早く魔物の軍団を倒してきなさいよ」

「なんだよ……これから魔物との戦いで死ぬかもしれないってのに。そんな冷たく突き放さなくても良いだろ?」

「あんな雑魚どもを相手に、アッシュが命を落とすなんて事あるはずないじゃない! きゃっ! ちょっと、どこ触ってんのよ!」


 敏感なところを弄られても、わたしは彼のなすがまま状態。抵抗しないのを良いことに、今度は耳たぶを軽くかじってきた。


 ようやく私から離れたアッシュは、飛翔の魔法を唱える。やっぱり以前ほど体力を奪われるような感覚はない。長い古代語の詠唱も、今回は全く唱えることはなかった。


 暗雲立ち込める大空にゆっくりと舞い上がるアッシュ。魔物の大群の真上に到達した彼の頭上には、巨大な青白い光の球体が出現していた。

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