22.やっぱり少しだけ不安
破裂した勢いで、後方へと吹き飛ぶキンダアーモンの頭部。地面に落ちると、そこから更に数メートル先に転がっていった。
一部分だけ仕損じるなんて、アッシュにしてはあり得ないような気もするけど。今回はたまたま、少しだけ狙いを外してしまったのかしらね?
それにしても、こんなホラーな光景が目の前に広がっていても全く動じなくなっているなんて。わたしの感覚も相当に狂ってしまっているみたいだわ。
でも、この世界をなんとか生き延びて、アッシュと共に私の居た世界に行く。そう決めたんだもの。これくらいの事で、いちいち怖がってなんかいられないわよね。
「今度こそ終わったの? アッシュ」
「ああ、終わったようなもんだ」
アッシュは、そんな曖昧な答えを返すと転がっていった頭の方に向かって歩きだす。
さすがに頭だけになって生きているとは思えないけど、念には念を入れるってことなのかしらね。頭のところまで行った彼は、容赦なくそれを踏み潰してしまおうと右膝を上げた。
ところが信じられない事に、あんな状態でもまだ死んでなかったみたい。とどめの一撃が下されようとした瞬間、かっと目を見開いたキンダアーモンの頭から蜘蛛のような脚が飛び出る。脚の生えた頭部は、ものすごい勢いでアッシュの元から離れていった。
「魔法が発動する瞬間、自分で頭を切り離しやがったろ」
「それが分かっていながら問答無用で踏み潰そうとするなんて、いくらなんでも鬼畜すぎるだろ! てめぇのイカれっぷりも相当なもんだな!」
「てめぇみたいな雑魚相手に、遊んでる暇なんてねーからな」
そんなこと言って、十分遊んでいるようなものだったじゃない。何処までいっても、相手の事を小馬鹿にしていないと気が済まないみたいね。
ところで、あんなにすばしっこく動き回る相手に、どうやってとどめを刺すつもりなのかしら。
「ぢぐしょー! この俺様を雑魚扱いしやがって! てめぇだけはぜってーに許さねー! この借りは必ず返させてもらうからな!」
なんとなく予感はしていたけど。そう捨て台詞を吐いたキンダアーモンの耳から、今度は蝙蝠の翼みたいな物が勢いよく飛び出した。
何かが生えてくる度にいちいち血が吹き出すのは本当グロいけど、なんだか少しコミカルな感じがするのはどうしてなのかしら?
翼を生やしたキンダアーモンは、舞い上がるなり弧を描くように飛びはじめる。しばらく私たちの周りを飛び回ったあと、山脈の方に向かって逃げ去っていった。
「タコ助が! 逃がしてやるわけがねーだろ!」
そう叫んだアッシュは、黒い点となった顔面コウモリの方に向かって右手を差し出す。少しだけいつもの倦怠感が私を襲った直後、彼の手から青白い光線が放たれた。
光線は見事に命中し、消し炭になるキンダアーモン。空には完全に何もない状態になっているし、そういう事で間違いなさそうだわね。
それにしても、もはや決めの台詞すら必要ないみたいじゃない。
今回はあまり力を吸いとられたような感覚もないし、段々と本来の力を取り戻しつつあるってことなのかしら。
でも、もしそうだとしたらやっぱり少し不安。そんな事はないと信じたいけど、わたしの力を必要としなくなった途端に捨てられたりしないわよね?
「今度こそ完全に終わったの?」
「ああ。あれだけの再生力を持つ奴だったのに、まるで生体反応を感じなくなったからな。けっこうしぶとかったけど今度こそ完全に死んだろ」
わたしの質問に対してそう冷たく答えるアッシュ。
今思った事を訊ねたかったけど、彼の反応を見ることさえ怖いと感じてしまう。
もし私の予想が正しければ、目標に近づいてるって事になるのに。そんな喜ばしいはずの話を素直に喜べない自分がいた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ブックマークや評価をいただける事は、創作を続けていくうえでの大きな励みとなります。
少しでも面白いと感じていただけましたら、是非とも応援の方よろしくお願いいたします。




