21.破壊光線
両腕を頭の上でクロスしながら、その場で立ち尽くすキンダアーモン。
雷が落ちた瞬間なんて見たことはないけど、あれだけの稲妻の直撃を受けて全くの無傷なんてはずがないわ。
身動き一つしないところを見ると、今の一撃でお亡くなりになってくれたのかしらね。そうだったら嬉しいんだけど、なんだかとても嫌な予感がするのはどうしてなのかしら。
「ちっ、意外としぶとい奴みてーだな。だが、圧倒的な実力差がある事だけは、その足りねー頭でも理解できたんじゃねーのか?」
すぐにそんな事を言い出すアッシュ。彼がそう言うんだから、敵がまだ生きているってことは明らかよね。でも、深いダメージを負ってくれてさえいれば良いんだけど。
なんて事を思っていたら、残念なことに普通に元気だったみたい。ゆっくりと腕を下ろしたキンダアーモンは、怒りの形相をアッシュに向けながら叫ぶ。
「てめぇ! ふざけたマネをしてくれやがって! おかげで高貴な俺様の服がボロボロじゃねーか!」
さっきから自分を高貴な存在みたいに言ってるけど、言葉遣いはアッシュと同じで下品そのものよね。でも、服の事しか気にしてない辺り、普通にまだ余力を残してそうな感じがして少しヤバいかも。
それにしても、あんなぶっとい雷の直撃を受けて何ともないなんて、どんだけ頑丈な体をしてるっていうのよ。殆んど不死身みたいなものだなんて、そんなの完全に反則じゃない。
「ふざけてんのは、てめぇの面の方だろ? 魔法耐性が半端ないってんなら、取って置きの凶悪呪文を食らわせてやんよ!」
そう返したアッシュから、初めて会った時のような凶悪な雰囲気を感じる。何とも表現しがたい異様な妖気みたいなもの。
強力な魔法の数々に茫然としていた騎士たちも、その異様な気配に戦いて固まっているといった感じ。
「おのれー! 美しい俺様の顔を『ふざけた面』とかぬかしやがったのか? 高貴な俺様を愚弄するとは、てめぇそーとー死にてーようだな! だいたい一方的に攻撃してきやがって。さっきから、てめぇばかり汚なすぎんだろ! 今度は俺様が攻撃する番だ!」
「殺し合いすんのに、ずりぃも汚ねーもねーけどな。そっちが攻撃してーってんなら堂々と受けてやんよ!」
いやいや、おっしゃるとおりズルいとか汚いとか関係ないから。早く取って置きの呪文とやらで片付けちゃってよ! 不死身に近いような相手の攻撃なのよ? どんな凶悪な攻撃がくるか分からないじゃない! 騎士さんたちだって、きっと同じ事を考えてるはずだわ。
そう不安に思う私だったけど。アッシュは、そんな周りの空気など関係ないとばかりに不敵な笑みを浮かべている。
「そいつは殊勝なことだ! こいつを受けてからせいぜい後悔するといい!」
僅かに表情を緩めたキンダアーモンはそう叫ぶと、これ幸いとばかりに続けて呪文を唱えはじめた。
~我は破壊の代行者なり。邪神カーリィの御前に血と恐怖と破壊を捧げん~
「邪光破!」
最後の決め台詞が叫ばれると、筋肉だるまの周囲に六つの赤い光の玉が出現する。次の瞬間、六つの玉から赤い光線が放たれた。
空中で集約された光線は、アッシュ目掛けて……って、なんかこっちに向かってない?
ヤバい、死ぬ! そう瞬間的に死を覚悟したときだった。
恐怖で、反射的に目を閉じるわたし。激しい爆発音だけはしたけど、あの世に行ったような感覚はしない。
あの世がどんな感じなのかは知らないけどね。
「ぶっ、ぶわぁかなっ! 俺様のブラカーヴィナッシュを片手で軽く防いだだとぉっ?」
キンダアーモンの、驚愕の叫び声が聞こえる。
恐る恐る目を開けてみると、わたしの目の前には王家の紋様が入った外套が翻っていた。
「てめぇ……俺の女に、何してくれようとしてんだ」
静かだけど感じる。激しい怒りがこもった声。
「アッシュ……」
ホッとして、それ以上言葉が出ないわたし。
後ろから抱きつきたい気持ちだったけど、今は彼の邪魔をしちゃいけない。
~ヤーグノギーズ セディロイ メイオコッキス ソボールホウ ニュサヌダイ ニュアーウ~
「そっ、その呪文はまさか!」
「お察しのとおり、こいつは防御不可だぜ」
~漆黒の闇よりいでし地獄の業火よ、我に仇なす者を滅ぼせ~
「ちょちょちょっ、ちょ待てや!」
「待ってやる気なんて更々ないな! 死ね! 破滅の黒炎!」
アッシュが最後の呪文を唱えた瞬間、キンダアーモンの全身は狼男の時みたいに内側から粉々に砕け散る。
飛び散った肉片は灰となっていき、頭だけを残して空気中に消えていった。




