19.オリジナル魔法
アッシュの挑発で、ヘンテコなメイクをした男の顔は怒りに染まる。蝙蝠の模様が、余計に迫力を増したようにも見えるわ。
地竜に乗っているせいで身長はわからないけど、かなり筋肉質でゴツい体型なのがそれだけでも分かる相手。
顔面に施されたメイクは、おふざけ過ぎると思うけど。そう思えるのも、アッシュという存在の安心感があればこそよね。
「てめぇ~……高貴な俺様の名をキ○タマ呼ばわりするとは、いー度胸してやがる! もう完全に許さん! やれ! 魔獣どもよ! あの銀髪野郎を引き裂いて、あ奴ら全員を絶望のどん底に落としてやるのだ!」
完全にやられ役ムーブをかましてるような発言だけど、冷静に考えたらちょっとヤバいかもね。あんな魔獣二体が同時にかかってきたら、魔道士のアッシュにとっては確かに不利。
そんな考えが咄嗟に頭をよぎったけど、その心配は全くの杞憂に過ぎなかった。
「爆裂!」
アッシュがそう叫んだ瞬間、ヒュドラの胴体は大爆発を起こしバラバラに弾け飛ぶ。
攻撃しようと拳を振り上げていたサイクロプスは、その様子に驚いて完全に動きを止めてしまった。
キ○タマ……じゃなくてコウモリ男さんも、何が起きたのかといった感じで口をあんぐり開けている。って言うかアッシュのせいで、すっかりそのイメージが定着しちゃったじゃない。
「既に、てめぇらの体内に爆弾は仕込んである! 俺が一声かけるだけで、お前らもそこら辺に散らばってる汚ねー肉片の仲間入りだ!」
だったらすぐにやれば良いじゃない。そう突っ込んでやりたかったけど。アッシュとしては、敵を脅して弄んでいるって感じなのかしらね。
それにしても今の魔法って、あの長ったらしい詠唱を一切していなかったように見えたけど。もし本当にそうだとしたら、チートすぎるにも程があるじゃない。
「ぐぬぬぅ……そんな脅しに、この俺様が屈するわけなかろう! 無詠唱で、こんな破壊力の魔法を放つなんて普通にあり得んことだ! さては、ここに来るまでの間に予め詠唱を済ませておいた感じだろ」
「そんな小細工なんてするかよ、タコが! てめぇらなんざ、無詠唱のオリジナル魔法だけで十分だ!」
筋肉だるまとアッシュの会話で、わたしの疑問はすぐに解けた。
やっぱり無詠唱魔法っていうやつだったのね。
爆弾を仕込んだって言ってるけど、それに関してもセットと考えて良いのかしら? だとしたらそんな複雑な行為まで、心の中で念じるとかイメージするだけでできるってこと?
最後の決め台詞だけは、起爆スイッチみたいなものとして必要ってことなのかしらね。
でも、それなら起爆自体も黙ってできそうなもんだけど。
アッシュはそう啖呵を切ると、今度は一つ目巨人に対し右の手のひらを向ける。不敵な笑みを浮かべた彼は、再び先ほどの魔法を全く躊躇う様子もなく唱えた。
内側から弾け飛ぶサイクロプス。
さすがに脅しでもなんでもない事にようやく気づいたのか、血肉にまみれたキンダアーモンは焦りの表情。
それにしても良く調教されている地竜ね。ある程度離れてるとはいえ、これだけの爆発が両脇で起きても身動ぎ一つしないなんて。
「そそそっ……そんな馬鹿な! 無詠唱のオリジナル魔法だと? しかも、こんな威力……てめぇは化物なのか?」
「化物づらの奴に、化物いわれたくねーけどな。俺様がちょーつえーって事だけは確かに認めるぜ」
そう余裕の言葉を返すアッシュ。完全に、相手を舐めきっているといった感じね。
さっきまでの威勢は何処へいったのかしら。そんな態度を示されても、筋肉だるま男は反論することさえできない様子。
でも、ただ黙っていたわけではなかったようね。
勝ち誇った態度のアッシュだったけど。このまま完全勝利、というわけにはいかないようだった。
「魔法霧散」
急にそう唱えるキンダアーモン。その瞬間、彼の表情は少しだけ緩んだ感じとなる。
対するアッシュは、すぐにチッと舌打ちし不機嫌そうに表情を歪ませていた。




