18.敵のボスは
さすがは命令に忠実な騎士、といったところかしらね。アッシュが敵に向かっていくと、騎士たちは一斉に馬を降り私の周りを囲み始めた。
アッシュが彼らに私を護るよう言ったのは、ここに残すための単なる口実だったのかしら? うん、たぶんそうなんでしょうね。もし彼が他の襲撃を察知していたのなら、絶対に私を側から離すなんて事しないはずだもの。って、それはさすがに自分を買い被りすぎかしら。
それにしても、こんなに周りを囲まれてしまったら彼の様子が殆んど見えないわ。
ここまでずっと間近で見てきたんだもん。全く心配なんてしてないけど、今回も彼の勇姿を誰よりも近くで見届けたい。
「隊長さん。私を馬に乗せてくれないかしら?」
当然よね。急にそんなことを言われて、騎士隊長さんは困惑した様子。
「魔人様に、ここで貴女の事を護るよう命じられましたが……まさか後を追うつもりではないでしょうな」
「そのまさかよ。見てのとおり、完全に力が抜けてしまって立つことすらできないから、悪いけど私を馬に乗せて彼の近くまで連れていってくれないかしら?」
こんな無茶なお願い、聞いてくれるはずもない。元々、命令に忠実な騎士さん達だし、ましてやその命令に逆らったせいで殺されたくなんてないものね。
でも、きっとアッシュはそんな事なんてしない。わたしにはそんな確証めいたものがあった。
「わたしがお願いしたって言えば、きっと大丈夫よ! なんなら馬に乗せてくれるだけでも良いわ。最悪わたしが勝手にきたって言うから」
わたしの言葉も、それなりに重要だと思ってくれているのかしら。鉄仮面の隙間から覗く騎士隊長さんの目は、少しだけ困った感じだったけど。一瞬、肩をすくめた彼は黙って自身の馬に向かった。
馬に股がりやってきた騎士隊長さんは「さあ」と言って私の方に手をさしだす。少しだけ力が戻ってきていた私は、ゆっくりとその手を取った。
周りの騎士たち何人かが、馬に乗るのを手伝ってくれる。お尻を触られたような気もするけど、今はそんなのどうでも良いことだわ。
何とかして私が隊長さんの後ろに乗ると、他の騎士たちも次々と騎乗しはじめる。
こうなってしまっては、ここに残っていた方が制裁対象になるものね。皆それは普通に分かっているみたい。
それからすぐに、わたしたちはアッシュの後を追いかけ始める。ちょうど彼に追いついたところで、敵はすぐ目の前にまで迫っていた。
「なんだよカナエ。結局おとなしく待っていられなかったのかよ。正直お前ら、足手まといなんだよな」
意外とそんなに、怒った様子でもないアッシュ。やっぱり、わたしの思っていたとおりだったわ。
「でも私のことだけは、きっちり守ってくれるつもりなんでしょ?」
最後までされなかったとはいえ、抱き枕にされ同じベッドで寝た間柄。自分でもちょっと信じられないけど。こんな言葉も自然と出てくるくらい、わたしは彼に対して心を許してしまっているみたいね。
「ぐぬぬぅ……雁首揃えて、のこのこと殺されにやってきたか! 俺様は闇の帝王アフカル様の一番の舎弟、キンダアーモン様よ! この俺様を怒らせたのが運のつき。お前ら全員、魔獣どもの餌にしてくれるわ!」
顔面に蝙蝠みたいなメイクを施した男の言葉に、騎士たちはみな騒然とする。その理由は、恐らくこれね。敵のボスの名前を初めて知ったから。
何故なら今までは、敵のボスが闇の帝王を名乗るっていう事くらいしか分かっていなかったんだもの。
それにしても、こちらから来ようが来まいがどっちにしろ攻撃してくるつもりだったくせに、一体こいつは何を言ってるのかしらね。
大きな地竜の背に乗るキンダアーモンと名乗った男は、言葉のとおりかなり怒り心頭といった様子。
恐ろしい魔獣に臆することもなく、こんな舐めた態度を取っているんだから当然よね。
地竜は、比較的おとなしい種類もいるから、人間も輸送用として使ってることもあるみたい。そうなるとアッシュが言っていたヤバそうな魔獣って、両脇にいる一つ目巨人と九つの頭を持った大蛇のことで間違いなさそう。
「うっせーざ~こが! キ○タマみてーな名前しやがって、いっちょまえに俺とカナエの会話を邪魔してんじゃねー!」
アッシュの言葉に一瞬だけ固まるも、すぐにブチキレた様子に変わるキ○タマ……もといキンダアーモン。ってか、そこまでキ○タマには聞こえないんですけど!
それほど強い魔物を倒すところを見ていない騎士たちは、まだ懐疑的なんでしょうね。お願いだからあまり相手を挑発するな、といった感じで皆アッシュの方に注目している。
当然、彼に対して絶対的な信頼を持っている私は、こんな状況にも全く恐怖を感じることはなかった。




