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17.いきなりのお出まし



 アッシュと話をしたことで、わたしはこの世界において新たに明確な目標を得ることができた。

 彼が本来持っていたはずの真の力を、私たち二人協力して取り戻していく。それが私の新たな目標。

 彼が知るという、世界を飛び越えるために必要な方法。それと彼の力を合わせることで、他にもある様々な世界へと自由に往き来できるようになるはず。

 そうなれば、好きな時に元いた世界に帰ることもできる。アッシュと一緒なら、すぐにこちらの世界に戻ることだって。


 具体的なことについては、まだ何も説明してはくれないけど。一緒に旅をしていけばそのうち分かる、って彼は言っていた。

 ということで私たちは現在、この地域を支配する魔物どものボスを退治しに、とある山脈の入り口付近までやってきていた。


 すっかり荒廃しきってしまった、この国の名はジュプリスト王国。

 いち早く闇の帝王に降伏した、この山脈を越えたところにある地域のルマーニャ地方には、こことは対照的に周辺国から集めた富が集中しているみたい。

 闇の帝王は、その地域を根拠地にしているようだけど。この辺りにいるっていうボスは、そいつの手下にすぎないようね。

 あれだけの軍勢を全滅させられちゃって、大ボス自ら出張ってきそうなもんだけどまだそうはなってない様子。

 アッシュは、財宝が沢山あるかもって聞いて俄然やる気になってくれたみたいだわ。


「早速お出ましだ! 何匹かわざと逃がしたおかげで、探す手間がはぶけたようだな」


 ここに来るまでの間に、何度か魔物の襲撃に遭っていた。

 討ち漏らしがやたら多いと思ったら、彼なりにそういった考えがあったのね。

 でもその言い方だと、この辺りを支配するボスが自らやってきたってことなのかしら?


「ボスが、こっちに向かってきているってこと?」

「ああ、たぶんそうだ。この周辺で一番、魔力が高い奴だからな。もう、すぐそこまで迫ってる。ヤバそうな魔獣も二体ひき連れてきやがったな」

「けっきょく気配感知を使っているなら、わざわざ誘きだす必要もなかったんじゃないの?」

「何気に力を使うと、けっこう神経を消耗すんだ。気配感知を広範囲で使ったりするのは特にな」


 そういえば町を出る直前にも、そんなようなことを言っていたっけ。飛んでいけば一瞬なのに、わざわざ馬車を用意させていたから、その時にも確かに同じようなことを訊いていたわ。

 訊いた内容については魔法の事に関してだったけど、魔法だけじゃなく固有の能力も、使えばそれなりに疲れるってことなのかしらね。いやむしろ私の力を使わないぶん、固有能力を使う方が消耗するのかもしれない。


 アッシュがそう言ってからしばらくすると、馬の嘶きとともに馬車は急停車する。

 周囲を並走していた護衛、正確に言うとたぶん監視役の騎士ね。彼らの叫び声からしても、何かが迫ってきている状況なのは間違いなさそうだわ。


 少し気だるそうに、黙って馬車から降りるアッシュ。

 わたしも彼の後を追って馬車から出ると、前方に巨大な何かが迫ってきている様子が窺えた。

 一体は巨人のようなものかしら。ひと形の大きな魔物のようね。その脇には、いくつもの頭を持った魔物も見える。大きさは、どっちも同じくらい。何となくだけど、二十メートルくらいの高さは有りそう。


 御者の人は、よほど恐ろしいのか顔を青ざめさせ固まっている。

 騎士たちも、どうして良いのか分からないといった感じで、茫然とその様子を眺めるばかりだった。


「魔人殿……」


 恐怖のあまり、それしか言葉が出てこなかったみたい。護衛隊長は、アッシュに向かって指示を仰ぐような感じでその名を呼んだ。


「ちっ、役立たずどもが。カナエの事だけは、しっかりここで護ってろよ! もし、ちーとでも怪我なんかさせたりしたら、お前ら全員死刑だからな!」


 いちいち悪態をつかないと、気が済まないのかしら。アッシュは、そう言うなり歩いて魔物の方に向かっていく。

 離れていても大丈夫なようね。彼が歩きだしてしばらくすると、いつものように激しい倦怠感に襲われる。立っていられなくなった私は、初めて彼に会った時みたいにその場にへたり込んでしまった。

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