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ディストピア

 一瞬の沈黙が訪れた。と次の瞬間。

「おい、お前!冗談でもそんな事言うんじゃねーよ!」グエンがアーロンに掴みかかった。

「そうよ!なぜそんな風に決めつけるのよ!」アイシャが援護する。

「よさないか!グエン!やめなさい」ジムと進一が止めに入った。

「お酒飲み過ぎたのかもしれませんね、グエンさんあちらで少し休みませんか」進一がグエンの脇の下から手を入れ、後退するようにアーロンから引き剥がした。

「じゃあ聞くが、あんたらはこの近くを通った船や飛行機を見たのか?!少なくとも俺はこの13年、毎日欠かさず海沿いを歩き目を凝らし続けてきたが、一隻の船も一機の飛行機さえも見ていない!救助なんていつまで経っても来ないんだよ!」

 ここがモーリシャスの近海だとしたら、モーリシャス島以外にもマダガスカルや南アフリカのケープタウンに向けて客船や旅客機、貨物船だっていい、一機一隻くらい通ってておかしくはない。確かに今の今まで一隻も見かけないのはおかしいのだ。

 否、皆多分気付いていた。ただ口に出して言うのが怖かったのだ。救助が来ないことを認めてしまうのがただただ怖かった。


「それだけじゃない。そのレポートに書かれている内容では第二次世界大戦以降、西暦2200年までの間に世界大戦が2度起こっていることを記している!核戦争の結果ユーラシアをはじめ北アメリカを含む6大陸の全てにおいて、生命の営みの存続が絶望的な状況となっているということが書かれているんだ!今我々がいるのは第四次世界大戦終結後から45年後の未来なんだよ!」

 

 一同はアーロンの説明に言葉を失った。

「それじゃ私たちはどうなっちゃうの?」ユーシンがシャオユーに泣きついている。

「消去法で考えてもこの島で生活する以外に生存の道は残されていないんだ!」

 絶望的だった。

 待っても1ヶ月程度で助かることを期待していた。船や飛行機が見当たらないのはまだ3日ほどしか経っていないからであって、そのうち必ずや助かると楽観していた。

 おそらくここにいる全員がだ。


「そんなのウソよ!その文章だって本当かどうか分からないじゃない」アイシャが身を震わせながら言った。

「なら諦めないで待ち続ければ良いさ。俺が言えるのはそれぐらいだ」

 信じるか信じないかは己次第ということなのだろう。アーロンはそれきり黙り込んでしまった。

 レポートに書かれていた内容を知りたがったのは自分達だ。決してアーロンのせいではない。ただ、怒りと不安の捌け口を必要とし、その矛先がアーロンへ向いてしまったのだ。

 皆ストレスがピークに達していた。

「アーロンさんすまなかった。今夜はもう休もう」進一がアーロンの肩に手をかけると、悄然とした表情で自分のテントへと戻っていった。

 焚き火の炎が小さくなり、やがて夜が更けていった。


 翌朝、バオは早い時間に目が覚めた。テントを出るとシャオユー1人だけが起きてテントから外に出ていた。

「あら、早いのねバオ」

「やあ、おはようシャオユー。そういえば森の中だけど耳は大丈夫なのかい?」

「うん、キャンプの中では全然平気みたい。ありがとう」

 朝の支度をしているとぞろぞろと皆が起きてきた。

その中に頭を掻きながらバツの悪そうな顔をしたグエンの姿もあった。グエンはアーロンに近づくやいなや。「昨夜はすまなかった。冷静さを欠いていた」と深々と頭を下げているのがバオからも見て取れた。

「いや、良いんだ。信じられない気持ちはわかる。俺もこの島に来てから3年ぐらいは何としてでも脱出してやるって意気込んでいたよ」

「そういえば、乗ってきたプロペラ機はどうしたんだ?」

「西側の森に広いスペースがあってな。そこに置いてきているよ」

 

 皆が起きたのを確認してから朝食の準備をし、全員で朝を囲んだ。何となくだが食事の時間は可能な限り全員で顔を合わせるようにしていたのだ。

「そういえばアーロンさん、シャオユーが森にいると耳が痛くなるって言うんだけど、何か心当たりはある?」

「シャオユーもそうなのね?アレックスも同じことを言うのよ」アイシャは以前アレックスが耳鳴りがすると言ったことを思い出していた。

「それはおそらくモスキート音のせいだ」

「モスキート音?何それ?」

 横で聞いていたシャオユーがアーロンに向き直る。

「高い周波数の音域で、敢えてその音を出すことで虫や動物、或いは人間をも近づかせないようにすることが出来るらしい。その事もグリーズマンレポートには書かれているよ。東の森のキャンプ外の至るところに音を出力する機械を設置して、動物実験で生み出された動物達が東側の森へ侵入してくるのを防いでいるようだ。実験の結果凶暴性が倍加した種もいるらしく、博士たちの手に負えなくなったんだろうな。西の森へ追いやったんだよ。そう考えるとネメシスの人間もこのキャンプを使っていた可能性は高い」

「そっか!それで西の森にはいたはずのブヨや鳥の鳴き声が東の森では聞こえなかったんだ。シャオユーも西の森では耳が痛いなんて言わなかったじゃないか」

「なるほどね!言われたらそうだわ。モスキート音ね」

「若い人にしか聞き取り辛いらしいからアレックスにも聞こえたんだろきっと」アーロンがアレックスの方を見た。

「それじゃあユーシンとメイリンやバオとミンも私とそこまで変わらないじゃない?どうして私だけ?」

「必ずしも若者全員に聞こえるわけではないんだろ。たまたまあんたには不快に聞こえたってだけかもしれないな」

 アーロンの言ったことは意外と的を得ているような気がする。

「それが本当だとしたら、とことん酷い奴らねその何とかマン博士達!」

 耳が痛くなる謎が解けた事でシャオユーとアイシャは胸を撫で下ろしていた。原因不明だけは困るのだ。


「ところでアーロンさんは他に人を見てないって言ってたけど、他の生物も見ていないの?」バオが気になっていた疑問をぶつけてみる。

「ああ、虫や鳥なんかは見ているが…あの地下を発見するまでは西側の森で生活していたからな」

「それじゃあ頭に角が生えた猿も見ていないんだね?」

「まさか。君たちは見たのか?!」

「初日にね」

「これは驚いた!実際に改造された個体がいたとはな」

 シャオユーが口を挟んできた。

「その生体融合の話しなんだけどね、近年の戦争ってそもそも原子力やドローンなんて最新技術を使って武力行使をしていたはずなのに、今更動物の力を借りてって少し変じゃないかしら?ここが本当に未来だとしたら尚更」

「それは俺も考えていた。確かにあまりにも原始的過ぎる発想だとは思ったよ。核戦争によって地球上の全ての大陸が壊滅的になった話は昨夜もしたが、実はグリーズマンレポートには他にもいくつかの分冊が存在している。昨日は持ち出していないが、確か3冊目だったかにはこれまでの戦争について触れられていたはずだ。よし、時間はたっぷりあるんだ、探して持ってこよう」アーロンの話は他の皆も興味津々といった様子で、帰りを待つことにした。

 30分程が経過した頃。

「すぐに見つかったよ」アーロンが穏やかな笑みを携えて戻ってきた。

 端がぼろぼろに崩れかけた一冊をバオが受け取る。

「終末戦域報告書、グリーズマンレポート第Ⅲ分冊…か。何かSFの世界そのものって感じだね」

 

 報告書の冒頭数ページに亘り、大戦勃発までの経緯が記されていた。ヨルダンを含む中東の途上国に対し、独裁政権の排除および民主化を理由としてアメリカが介入。小規模な武力衝突を皮切りに第三次世界大戦へと発展したのが2155年のこと。

 15年後の2170年には一旦終結を迎えるも、それから僅か30年後の2200年には、アフリカで採掘されていた希少資源、レアメタルを巡る小国同士の小競り合いから一転、資源の利権を巡りロシアと中国が介入。代理戦争から大戦へと発展しており、11年かけて地球という惑星を壊滅状態まで追い込んでいた。


「いつの時代も利権を巡る争いは絶えないんですね」

 国家間の争いの背景には、全てと言って良いほど宗教、若しくは何かしらの権利問題が介在している。

 バオが皆に聞かせるように報告書の内容を読み上げていた。

「おそらくコードネーム:アルカディアは米中露辺りの大国の生き残りが主要メンバーとなって構成されているのではないだろか。それを考えると全てが壊滅しているわけではなく、世界中でもこの島と同じように核の影響を受けていない場所がある可能性が高い。ただ、この島のようにある意味ディストピア化している可能性もあるがな」

 アーロンは13年間ずっと1人だったのだ。外界のことを想像するときにはこのグリーズマンレポートがその全てだったのだろう。


「2度の核戦争によって人口が激減したのは容易に想像できる。ここからは推測の域を超えないんだが、以降核開発に充てる人材を含めた資源の枯渇によって、おそらく人類の闘争手段は原始的な方法へと退化したのではないだろうか。これは完全に俺の想像だがな。報告書によると、アルカディアの発足やネメシスの建設は最後の大戦が明けてから5年後の2216年となっている」

 アーロンが調べ尽くした内容を包み隠さず解説してくれた。


 アーロンを加えた14名は、これからの生活の行動理念として、念の為救援を求める行為は継続するものの、島への定住も視野に入れ、地下施設の解明に向けたさらなる調査をしていくということになった。

 島への電力供給を考えると、14名以外の人間がいる可能性に疑いの余地は無い。

 全てがまるで信じられない話しだったが、少なくとも島への滞在が長期化することは避けられなさそうだった。

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