頼みごと
「可愛い智子に頼みがある」
口に出した瞬間、智子の眉がわずかに動いた。
いつもなら冗談だと受け流してくれるはずなのに、
今の空気の中では、その一言すら重く響いた。
「……また面倒なこと?」
声が硬い。
でも彼女は、結局断れない。
俺はその性質に甘えているし、智子もそれを知っている。
ただ、今回は今までと違う。
これは“二人で進むしかない”領域だ。
「旧企画室の中を……もっと調べたい」
そう言うと、智子はため息をついた。
だが、視線は紙片から離れない。
彼女も気づいているはずだ——
ここには“提示”の痕跡が、まだ山ほど眠っている。
「危険よ」
「危険なのは分かってる。……でも、俺たちが放っておいたら、
“次”が別の誰かになる」
そう言いながら、足音の人物が残していった灰色の紙片を思い出す。
次の対象。
あれが渡される前に、この仕組みを暴かなきゃならない。
机の引き出しに手をかける。
埃の匂いが立ち上ると同時に、智子の手が俺の手首を掴んだ。
「……一人じゃ行かせない。どうせ止めても聞かないんでしょ」
その声に、思わず口元が緩んだ。
「綺麗で真面目な智子が一緒なら、心強い」
彼女の手が離れる。
引き出しを開けると、中にはまた一枚、青い紙片。
そこに書かれていたのは、短い言葉だった。
> 「Bellflower_00の次は、Bellflower_∞」
息を呑む。
数字ではなく、記号。
記録が連番で続くのなら、これは明らかに異質だ。
無限。終わらない観察。
俺は紙を握りしめ、智子に言った。
「頼みってのはな……一緒に“∞”を確かめに行こうって話だ」




