変化の兆し
大輔が紙片を受け取った瞬間、空気がひどく重くなった。
それは温度でも湿度でもなく、目に見えない圧のようなもの——
私の呼吸さえも、ゆっくり奪っていく。
足音の人物は去った。
けれど、大輔の表情はそのまま凍り付いている。
無表情に近いけれど、ほんの僅かに目の奥が揺れていた。
あれは、彼が何かを見ている証拠だ。
「大輔……」
呼びかける声が思ったより弱かった。
返事はなかったが、視線が一瞬だけ私に向く。
その視線は、彼が私を“確認”しているかのようで——
安心か、それとも別の感情かは判別できない。
机の上の青い紙片が、ふと風もないのに揺れた。
目の錯覚かもしれない。
だけど、その揺れは私の心臓に直接触れたみたいに、
不安を増幅させる。
大輔は紙片をポケットにしまい、何事もなかったかのように背筋を伸ばした。
その動作の中に、“変化”が混じっている。
私が知っている大輔は、面倒ごとを避けたがる。
だけど今の彼は、まるで自ら足を踏み入れようとしているようだった。
「……どうするつもり?」
問いは自然に口から出た。
彼は少しだけ口角を上げて言った。
「可愛い智子に頼みがある」
——ああ、この流れ。
嫌な予感しかしないのに、胸の奥がざわつく。
この“頼み”が、これまでと違う領域に私たちを連れて行く——
そんな確信があった。




