通達役
“通達”はいつだって短い言葉で足りる。
長く語れば、受け取る側に疑問が生まれるからだ。
俺の仕事は、疑問を与えることじゃない——決意を促すことだ。
旧企画室の中で、大輔の視線は予想以上に鋭かった。
紙片を差し出したときの反応——あれはすでに何かを掴んでいる目だ。
だからこそ、次の段階に進める価値がある。
俺は黒幕じゃない。
“黒幕”を名乗る連中の下にもう一段階、影の階層がある。
俺はそこから派遣される、いわば選別役だ。
誰が“次”に進めるか、その場で見極める。
淡い灰色の紙片がポケットの中で温もりを帯びる。
これを渡すときは、対象が自分で扉を開けようとした瞬間だ。
無理やり押し込めば拒絶される。
自分の意思だと思わせて差し出す——それがこの仕事の肝だ。
大輔の目は、迷いながらもこちらを逃さない。
智子の表情は、何かを察しながらも言葉を飲み込んでいる。
……面白い組み合わせだ。
次の提示で、この二人はきっと別の顔を見せる。
ドアの外、廊下の奥で微かな気配が動いた。
俺を監視する視線——階層のさらに上からの監視か、それとも別筋か。
いずれにせよ、この場は予定より早く切り上げたほうがいい。
「準備しておけ、大輔。すぐに“見える”ようになる」
そう告げて背を向ける。
残された時間は、もうそう長くない。




