視線の衝突
足音の主が現れた瞬間、室内の空気が一段硬くなった。
智子も結城も、その人物を見て一瞬言葉を失う。
けれど俺だけは——来ることを知っていたような気がした。
そいつの靴は静かに床を踏み、青い紙片の前で止まった。
手はポケットに突っ込んだまま、視線だけが俺を射抜いてくる。
軽い笑み。
でも、その奥には何層もの意味が隠れているのがわかる。
「久しぶりだな、大輔」
声は低く、しかし妙に滑らかだった。
久しぶり? 確かに顔は見覚えがある。
でも、その記憶はふわふわと輪郭を持たない。
まるで“作られた”映像のように。
智子が口を開きかけたが、その人物は軽く手を上げて制した。
「今は話すな。——まだ提示の途中だ」
提示、という単語に、背中がひやりとした。
この言葉を知っているのは、俺と智子、そして……黒幕側の人間だけだ。
彼は紙片を拾い上げ、俺の目の前に差し出した。
「お前が次だ、大輔。拒むか?」
拒む——その選択肢が、本当に存在するのか。
脳裏の奥で、微かに別の映像が流れ始める。
灰色の紙片。
まだ触れていないはずなのに、指先がその質感を知っている。
「……拒まないとどうなる」
「全部、見える」
その答えに、息が詰まった。
見える——その響きは、警告にも、誘惑にも聞こえる。
俺は紙片から視線を外し、智子を見た。
彼女の瞳には、迷いと、わずかな覚悟が混ざっていた。
——きっと、俺も同じ顔をしている。




