重なり始めた輪郭
旧企画室の空気は、重く、乾いていた。
けれど鼻腔を抜ける匂いは、なぜか知らないはずの記憶を呼び起こす。
引き出しの奥に詰まった紙の匂い。
その中で、一枚だけ際立つ青。
紙片を見た瞬間、胸の奥で何かがきしんだ。
それは智子の視線を通して感じたきしみと、
ほぼ同じ形をしていた。
……いや、同じだ。
誰かが、俺たちを同じ形に揃えている。
紙には、見覚えのない文字が並んでいた。
けれど読んだ途端、理解が流れ込む。
「Bellflower_00は記録ではない。これは提示だ」
意味はわからないはずなのに、どこか納得してしまう。
視界の端で、結城が紙を拾い上げる。
その手の動きに合わせるように、
俺の頭の中にも別の映像が差し込まれた。
——古い木の引き出し。
青い紙片が幾重にも重なり、端がすべて揃っている。
埃はなく、光の当たり方さえ完璧。
“作られた記録”というより、“見せるための絵”だ。
その不自然さに気づいた瞬間、背筋を冷たいものが走った。
誰かが、俺たちの記憶の形を操作している。
しかも——それは今日が初めてじゃない。
もっと前から、同じ仕組みの中にいたような感覚がある。
扉の外で足音が止まる。
智子でも結城でもない。
でも、どこかで会ったことのある気配。
振り返る前に、胸の奥で囁きが響く。
「次は、お前だ」




