提示者
——三つの視界が、ようやく一つの焦点に収束した。
扉を開けた瞬間の旧企画室。
大輔、智子、結城。
彼らの視線の流れまで、完璧に同期している。
青い紙片は、ただの触媒だ。
色も紙質も、何十種類も試した末に辿り着いた“最適解”。
それを視界に入れるだけで、彼らは同じ映像を“思い出した”と錯覚する。
——もっとも、その映像は記録ではなく、提示だ。
Bellflower_00。
これを初めて適用する相手が三人同時になるとは、
正直、想定外だった。
だが結果は悪くない。
映像が交じり合うことで、境界感覚は一層薄まる。
問題は、この先だ。
提示は強すぎれば破綻する。
彼らの中に“不自然さ”が芽生えた瞬間、
同期の鎖は切れてしまう。
私はモニターから視線を外し、
机の隅に置かれた未使用の青い紙束を一枚、指先で弾いた。
その端に、次の対象の名前が印字されている。
紙束の一番上にある名前を指でなぞる。
インクはまだ新しい。印字したばかりの黒が、
机の光を吸い込んで沈んでいる。
次の対象——それは大輔でも智子でも結城でもない。
彼らの外側にいる、しかし必ず交差する位置に立つ人間。
この人物が絡めば、提示の波はさらに広がる。
私は机の引き出しから、別の色の紙片を取り出す。
青ではなく、淡い灰色。
これは“最終段階”で使うためのものだ。
まだ早い。しかし、そのときが来るのは遠くない。
モニターに目を戻すと、同期状態は安定している。
三人の視界は旧企画室に留まり、青い紙片から離れない。
——この集中を壊さずに、次の波を重ねる必要がある。
私は淡々とマウスを動かし、
画面上に“Bellflower_00”の新しいバージョンを呼び出した。
その隅には、次の対象の名前と、開始予定時刻が表示されている。
時刻は、もうすぐだ。




