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君のカンパニュラ  作者: 9どう?亜依


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29/52

提示者

——三つの視界が、ようやく一つの焦点に収束した。

 扉を開けた瞬間の旧企画室。

 大輔、智子、結城。

 彼らの視線の流れまで、完璧に同期している。


 青い紙片は、ただの触媒だ。

 色も紙質も、何十種類も試した末に辿り着いた“最適解”。

 それを視界に入れるだけで、彼らは同じ映像を“思い出した”と錯覚する。

 ——もっとも、その映像は記録ではなく、提示だ。


 Bellflower_00。

 これを初めて適用する相手が三人同時になるとは、

 正直、想定外だった。

 だが結果は悪くない。

 映像が交じり合うことで、境界感覚は一層薄まる。


 問題は、この先だ。

 提示は強すぎれば破綻する。

 彼らの中に“不自然さ”が芽生えた瞬間、

 同期の鎖は切れてしまう。


 私はモニターから視線を外し、

 机の隅に置かれた未使用の青い紙束を一枚、指先で弾いた。

 その端に、次の対象の名前が印字されている。


紙束の一番上にある名前を指でなぞる。

 インクはまだ新しい。印字したばかりの黒が、

 机の光を吸い込んで沈んでいる。


 次の対象——それは大輔でも智子でも結城でもない。

 彼らの外側にいる、しかし必ず交差する位置に立つ人間。

 この人物が絡めば、提示の波はさらに広がる。


 私は机の引き出しから、別の色の紙片を取り出す。

 青ではなく、淡い灰色。

 これは“最終段階”で使うためのものだ。

 まだ早い。しかし、そのときが来るのは遠くない。


 モニターに目を戻すと、同期状態は安定している。

 三人の視界は旧企画室に留まり、青い紙片から離れない。

 ——この集中を壊さずに、次の波を重ねる必要がある。


 私は淡々とマウスを動かし、

 画面上に“Bellflower_00”の新しいバージョンを呼び出した。

 その隅には、次の対象の名前と、開始予定時刻が表示されている。


 時刻は、もうすぐだ。

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