境界のない映像
——視界が勝手に切り替わる。
自分の目で見ているはずなのに、時折、大輔の視線や、
知らない男——結城の目線に引きずり込まれる。
旧企画室の扉を開ける瞬間、私は二度、自分の心臓の音を聞いた。
ひとつは私の胸から、もうひとつは大輔の胸から。
その拍動が同じリズムで重なる。
部屋の中央に置かれた青い紙片。
私が視界の端でそれを確認した瞬間、
大輔と結城の視線も同じ紙へと収束する。
……いや、これは視線じゃない。
誰かが意図的に“同じ方向”へと導いている感覚。
紙に記された文字が浮かび上がる。
> 「Bellflower_00は記録ではない。これは提示だ」
意味はわからない。
でも、この言葉が“大輔にも”見えていることだけは、確信できた。
映像が、私の記憶と混ざっていく。
いや、これは私のものじゃない。
大輔の視線、大輔の呼吸、大輔の胸の奥のざらついた感情が、
そのまま私の中に入り込んでくる。
机の向こう、結城が青い紙を手にしている。
その瞬間——
私の中に、見覚えのない風景が差し込まれた。
古びた木の引き出しの中。
同じ青い紙片が何十枚も重なっている。
ひとつひとつに、異なる日付と時刻が記されている。
けれど、その映像は妙に“きれいすぎる”のだ。
埃ひとつなく、紙の端まで均等に光が当たり、
まるで誰かが「見せるため」に作ったような記録。
——作られた記憶。
その気づきと同時に、大輔の感情も流れ込んでくる。
焦り。疑念。そして——何かを思い出しかけている感触。
私は思わず、その感情を掴もうと手を伸ばした。
しかし次の瞬間、映像は断ち切られ、
自分の目だけが残った現実に戻っていた。
旧企画室の扉は、開いたまま静まり返っている。
けれど私の中では、まだ大輔の呼吸が聞こえていた。




