同期の渦
視界が三重に揺れる。
自分の目、智子の目、そして見知らぬ男——結城の目。
それらが秒単位で切り替わり、時に同時に重なって、
現実の輪郭を溶かしていく。
旧企画室。
存在しないはずのその扉が、結城の視界で確かにそこにある。
気づけば、俺の足は勝手に動き出していた。
まるでそこに行かなきゃならない理由が、
昔から埋め込まれていたみたいに。
廊下の角を曲がる瞬間、視界が智子のそれに変わる。
俺の背中を見つめる視点。
その智子の目にも、青い紙片が映っていた。
床に落ちたそれは、ほんのり湿っていて、
見覚えのある手書きの数字がにじんでいる。
数字の並びを見た瞬間、頭の奥で別の映像が弾けた。
——Bellflower_06。
そこに映っていた机の端にも、同じ紙片があった。
だとすると、この青い紙は……ただの偶然じゃない。
廊下の先に、結城の視界が戻ってくる。
扉に手をかける彼の感触が、俺の指先にも伝わった。
結城の手が扉を押し開ける。
同時に、俺の手も——智子の視界の中の俺の手も——
同じ動きで扉を押していた。
薄暗い室内。
埃っぽい匂いが鼻を突き、古い木の机やロッカーが並ぶ。
それは確かに、数年前に閉鎖されたはずの“旧企画室”だった。
だが、俺の記憶では、この部屋はもう存在していない。
机の中央に、一枚の青い紙片。
さっき廊下で拾ったものと同じ色、同じ質感。
結城がそれを手に取ると、智子の視界にも、俺の視界にも、
同じ瞬間に“中身”が映った。
白い紙に、黒インクの文字——
そこには、こう書かれていた。
> 「Bellflower_00は記録ではない。これは提示だ」
言葉の意味を理解する前に、視界がぐにゃりと歪む。
結城の記憶、智子の記憶、そして俺の記憶が
ひとつの映像に混ざり合っていく。
それは——誰かが意図的に作った「記憶の映像」だった。
その時、頭の中で聞こえた結城の声が
現実なのか、同期の産物なのか、判別できなかった。
——「ようやく、こっちを見たな」




