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君のカンパニュラ  作者: 9どう?亜依


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26/52

観察の臨界

——リンクが暴走している。


 警告灯が低い点滅を繰り返し、

 制御卓の上を赤い波形が流れていく。

 Bellflower_00の同期値はすでに臨界を超えていた。


 「視点同一化が……完了?」


 背後のオペレーターの声が震えている。

 予定していたのは部分的な交差——

 片方向の“覗き”でしかなかった。

 だが、対象Aと対象Tは互いの視界を共有し、

 しかもその視界がこちら側に逆流してきている。


 モニターに映るのは、二人の現実視点と、

 それを観察するこちらの操作室。

 つまり——彼らはすでに、この部屋の存在を知った。


 「切断は?」

 「不可能です。観察構造そのものが固定化されています」


 つまり、リンクを解除すれば全構造が崩壊し、

 Bellflowerシリーズ全記録が失われる。


 私は深く息を吸い、

 唯一残されたコマンドに指を伸ばした。


> 【分岐視点追加】——選択対象:結城


 ——事態は制御不能。

 次は、あの男の視界を開く番だ。


結城のファイルは、他のどれとも構造が違う。

 Bellflower_01〜07のような連続記録ではなく、

 複数の短い断片が、意図的に時間軸を外されて保存されている。


 それらは、私ですら全貌を把握できない。

 ——だからこそ、最後の安全弁として残していた。


 リンク申請を確定すると、システムが低く唸り、

 結城の視界が断片的に浮かび始めた。


 最初に映ったのは、見覚えのある廊下。

 だが、その突き当たりには、現在存在しないはずの“旧企画室”の扉があった。


 オペレーターが息を呑む。

 扉の前に立つ結城が、ゆっくりと振り向き、

 モニターの向こうの私たちを、はっきりと見た。


 彼の口が、音もなく動く。


 ——「遅かったな」


 その瞬間、Bellflower_00の同期値がさらに跳ね上がる。

 対象AとTの視界に、結城の視点が混ざり始めたのだ。


 観察は三方向に拡張され、制御系は限界を超える。

 だが私は切らない。

 これは、私が何年も待っていた“臨界”だからだ。


 ここから先は、記録も証拠も残らない。

  だが、それこそが本来のBellflowerの目的だった。


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