揺らぐ被写体
モニターが暗転した後も、耳の奥にはノイズが残っていた。
現実の空間は静まり返っているのに、
頭の中では、さっきまでの映像が繰り返し再生される。
Bellflower_00の中で見た操作卓。
そこに座っていた、顔の見えない人物。
そして——こちらを見返す視線。
視線を受けた瞬間、私は被写体ではなく、
“撮る側”の感覚を一瞬だけ味わった。
その感覚は、奇妙な不快感と同時に、妙な高揚感も伴っていた。
これまで私は映される側だと思っていた。
けれど、本当は——ずっと誰かの視界を覗いていたのかもしれない。
大輔が、沈黙を破った。
画面の中に現れたのは、間違いなく“私”だった。
だけど——その映像の私は、知らない服を着て、
見覚えのない部屋に座っていた。
机の上には、封筒に入った薄い青い紙片。
映像の私が、それを手に取って開くと、
中から小さなメモが一枚滑り落ちた。
そこには短く、こう書かれていた。
> 「視線は、あなたの後ろから」
次の瞬間、映像の私が振り返る。
その視線の先には——この部屋、このモニター、
そして現実の私と大輔が座っている光景が映っていた。
映像と現実が重なった瞬間、背中を冷たいものが這い上がる。
まるで、映像の私が現実の私を見ているようだった。
大輔が小声で言った。
「……これ、Bellflower_00じゃないな」
私は口を開きかけたが、声にならなかった。
映像の私が、ゆっくりと笑みを浮かべたからだ。
画面が再び暗転し、ノイズが耳を満たす。
そして——暗闇の中に浮かぶ白文字が、はっきりと読めた。
> 【被写体と視点の同一化——完了】
この瞬間、私は確信した。
もう私たちは、どちら側にも戻れない。
「……あいつ、こっちを知ってたな」
彼の声が、やけに冷たく響く。
私はうなずくしかなかった。
画面に微かな明かりが戻る。
警告文が、赤く点滅している。
> 【観察対象ID変更中】
【視点分岐進行率:41%】
——視点分岐。
その言葉の意味を理解する前に、映像が再び切り替わった。




