表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君のカンパニュラ  作者: 9どう?亜依


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/52

声が届く先

 自分の声を、自分で聞いているはずなのに、どこか違和感がある。

 イントネーション、文の切り方、語尾の伸ばし方。

 どれも似ている。けれど——“同じじゃない”。


 Bellflower_03の音声データ。

 社内共有フォルダに断片的に残っていた数十秒のログ。

 それは、誰かと自分が話している最中のやりとりの一部だった。


 けれど、その「美咲の声」として記録されている側の音声が、どうしても“自分自身の記憶”と一致しない。

 確かにそういう言い方をすることもある。

 でも、あんなテンポじゃ言わない。

 あんな言葉は選ばない。


 それに、何より——

 あのとき、そんな会話はしていない。


 自分が記録されていた——その可能性を最初に疑ったのは、ほんの数日前だった。

 でも今は違う。

 これは、記録ではなく“編集”された記録だ。


 誰かが自分の会話を切り貼りして、別の意味に差し替えたような、そんな感触。

 音声の波形は限りなく自然に調整されていて、一見ノイズもない。

 けれど波形の底部には、異常な振幅パターンがあった。

 高音域だけが微妙に繰り返され、“合成された音声”特有の再構成痕が残っていた。


 「ねえ、私……これ、本当に“自分の声”だと思う?」

 そう誰かに訊きたくなって、やめた。

 訊いたところで、誰も信じない。

 自分ですら、信じたくない。


 その晩、美咲は自分のイヤホンをつけて再度Bellflower_03の一部を再生した。

 映像の背景には、社内の休憩スペースが映っている。

 右奥には、自販機の赤いランプ。

 その前に、誰かが立っている——


 一瞬、画面が乱れ、人物のシルエットが左右にぶれる。


 再生速度を0.25倍に落として、フレーム単位で確認する。


 一瞬だけ、フレームの隅に**“黒いジャケットの後ろ姿”**が映っていた。

 背丈。髪の形。首の傾け方。


 ——大輔。


 いや、断定はできない。

 でも、あれは見間違えるようなタイプの影じゃない。


 彼は知っている。

 たぶんずっと前から、なにかを。


 映像の中の“彼”が本当に大輔なのか、それはまだ確信できない。

 でも、どこかで知っていた。

 ——彼なら、こういうときに表に出てこないことを。


 誰よりも早く気づいていて、

 誰よりも後ろで静かに見ている。

 いつもそうだった。だからこそ、怖い。


 自分の声が、自分でない誰かに書き換えられている感覚。

 これは「記録」ではない。

 **「再構成された過去」**だ。

 それを上書きされていることに、ようやく自分が追いついたにすぎない。


 ふと、自分のデスクのPCに視線を落とす。

 画面には、社内のセキュリティログ一覧。

 Bellflowerプロジェクト関連のアクセス権限リストが並んでいる。


 その中に、ひとつだけ不自然な項目があった。


> アクセス要請ログ:

Bellflower_07.enc(※未承認)

最終申請者:Y_Kuwata

処理結果:申請却下(上層管理者:Y_Yuki)


 桑田——彼もまた、このファイルに触れようとしていた。

 そして、結城に拒まれていた。


 Bellflower_07。

 その記録だけが、現在も“未公開”のまま保留されている。

 誰にも開かれていない——ことになっている。

 でも、違う。大輔が、あるいは——自分自身が、もうどこかで見ていたかもしれない。


 自分の声が歪められていた理由。

 自分ではない誰かにされそうになっていた“痕跡”。

 それを知るには、もうここしかない。


 手は震えていた。

 でも、指先だけが冷静だった。


 ログイン。

 アクセス要請。

 Bellflower_07のファイル名を、手動で入力。


> 【申請を送信しますか?】

[YES] [NO]


 ——YES。


 クリックの音だけが、部屋に響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ